「強烈なまでに振り抜く己の才能への自信とコンプレックスとが織りなす天才がゆえの振り子の美学」ゲンスブールと女たち 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
強烈なまでに振り抜く己の才能への自信とコンプレックスとが織りなす天才がゆえの振り子の美学
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ガキの頃からヌードモデルの御姉様を堂々と口説きオトすマセた性分がゆえ、エロスがふんだんに盛り込まれているものの、エグいイヤらしさは無く、あくまでも芸術の1ジャンルとして、ポップに描き通す世界観は、『エマニエル夫人』から脈々と受け継がれているフランス映画の大きな特色だ。
裸体をシーツ一枚で包み、悩ましく舞うバルドー相手に、ピアノでデュエットする場面は、今作の儚さを美しく象徴している。
ユダヤの血を持ち、差別に打ち勝とうとした反骨精神、そして、絵に音楽にと偉大な才能を開花させた自信満々の反面、その器用さが足かせと感じてしまう。
一つの分野を突き詰められない己の不甲斐なさに自己嫌悪に陥り、忘れ去ろうと酒や女に溺れ、堕落していく破滅的な生き様を、醜いもう一人の自分を対峙させて、ユーモラスとシビアが共存した自問自答を続けるスタイルは漫画家出身の監督ならではのセンスが光っていた。
強烈な自信とコンプレックス、愛への願望と逃避、現実と幻想etc.etc.両極端な感性が天才の胸中を交錯する度に、甘くもあり、苦くもある後味が効いた不思議な躍動感がスクリーンへと溢れゆく。
長年の不摂生が祟り、心筋梗塞で倒れたにも関わらず、死ぬまで酒・煙草・オンナを頑なに手放さなかった晩年は、常に一貫しており、逆に真面目な人生とも云えよう。
未だに醜い自分しか知らない私にはただただ羨ましい小一時間であった。
では最後に短歌を一首
『夢に酔ひ 夜霧に吹かす 愛の詩 気紛れに舞ふ 鏡を抱いて』
by全竜
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