「登場人物たちの無力な姿が震災当時の自分達と重なります。」スカイライン 征服 kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
登場人物たちの無力な姿が震災当時の自分達と重なります。
2011年7月中旬にTOHOシネマズ六本木ヒルズのアート・スクリーン(現在のスクリーン5)にて鑑賞。
SF映画のなかで、異星人の侵略を題材としたパニック映画が多く作られていますが、そのなかで、特に忘れられないのが本作『スカイライン-征服-』であり、VFX会社の“ハイドラックス”を率いるコリン&グレッグ・ストラウス兄弟が『AVP2-エイリアンズVSプレデター』以来の監督作として放った低予算の力作です。
友人のテリー(ドナルド・フェイソン)の誕生日を祝うためにロサンゼルスの高級マンションのペントハウスを訪れ、楽しい一夜を過ごしたジャロッド(エリック・バルフォー)とエレイン(スコッティ・トンプソン)だったが、その翌日の夜明け前に突然の閃光と共に友人たちが光に吸い込まれて姿を消し、それが異星人による侵略の始まりである事が明らかとなる(粗筋)。
この手の作品は人類が団結し、「俺たちが力を合わせれば、怖いものはない。異星人が相手であろうと絶対に勝てる。人類は絶対に負けずに地球を守り抜くんだ!」という希望のある話になるのが当たり前と言えますが、本作はそういうのは無く、人類が完膚なきまでに攻撃され、希望が垣間見れる事なく進み、極限状態に追い込まれても、無力である事を思い知らされる作品で、全米公開されたのは2010年の秋でしたが、日本公開は2011年6月だったので、本作の主要登場人物の無力さは、3月11日の東日本大震災が起きた直後に、テレビの中継映像を通じて、東北地方を襲った悲惨な光景の数々を見て、画面に繰り返し表示された“緊急地震速報”の警報音と共に揺れた余震や誘発地震に恐れ戦いていた頃と重なるものがあり、普通のSFパニック映画として観る事は出来ない作品として忘れられず、現実を受け入れることが出来ずにいるジャロッドに対して、オリヴァー(デイヴィッド・ザヤス)が「これが現実なんだ。受け入れるしかない!」と諭す台詞が私の胸に突き刺さりました。私自身も震災の発生直後は「これは夢なんじゃないか」と思い、目を背けたくなった事もあったので、余計にこの台詞は重要だと感じながら、観ていました。
「もし、本作が震災前に日本公開されていたら」と思うことがあります。もし、そうなっていたら、普通に面白いパニック映画として観られた筈で、本作の内容は偶然こうなっただけで、同じ時期に製作され、偶然にも全米公開日が3月11日となり、オカルト系のネタになっている『世界侵略-ロサンゼルス決戦-』の方が、「もしかして、何か意図して作られていたりして」と思えるので、これだけ重たさを感じる作品になっているとは予想しておらず、この内容に驚きと衝撃を受け、本作唯一のカッコいいシーンである軍の戦闘機と異星人の戦闘機のドックファイトの件は始まった時は、一瞬、重たさを忘れさせてくれて、この手の作品特有のワクワクとハラハラ感を味わわせてもらえたのですが、それが終わる時の一撃が炸裂すると、完全に力が抜け、まるで、その世界に居るかのような感覚となり、余計に震災と重なるような見方をするようになりました。それが原因か、本作は話の面白い作品なのに、続けて観るのに躊躇いを感じて、劇場で観たのを最後に、手の出せない一作(地震の描写をハッキリと描いたイーライ・ロス製作・出演のホラー『アフター・ショック』の方が、本作よりも多少は手を出しやすいと感じたほどですが)となり、レンタルや地上波放映でも観ておりません。それぐらい強烈です。
普通の映画として観ても、驚きの点は多い作品でしょう。一つ目は製作費が1050万ドルと低予算なのに、映像のスケールと迫力は1億5千万ドル以上の超大作並みと思える完成度の高さで、流石はVFX企業を率いて、数多くの話題の大作のCGを手掛けてきたストラウス兄弟だけに、この映像の素晴らしさは格別で、ストラウス兄弟は世界的に不評でしたが、個人的には大変面白いと思っている『AVP2』の監督(『AVP2』は全体的に色調が暗い作品でしたが、本作は内容が暗いので、別の意味での暗さという点で共通していると思いますが、本作のドックファイトの件と『AVP2』のクライマックスは若干似通っているので、どちらもストラウス兄弟らしい作品なのだと思えます)だっただけにマニアックなセンスも健在で、登場人物に感情移入しづらかったり、この手の作品で、よくある外の安全な場所を目指して、命懸けの移動を試みるというのも無く、マンションから離れないという舞台設定がそれに当てはまり、そこに人類がやられるだけやられる展開なので、これを気に入る人は少なく、観る人を選ぶ作品なのは間違いありません。他にも驚きの点を挙げるなら、それはマシュー・マージソンが手掛けた音楽で、エンドロールで流れるメインテーマの『Damage Control』は何も知らずに聴いただけなら、ポリス・アクションやスリラー映画のような作品のスコアに聴こえ、まさか、悲惨な内容のSFパニック作品のテーマ曲とは思えず、そこに意外性と驚きを感じます。
出演者は皆、それぞれ好演していたと思います。『エクスペンダブルズ』で南米の独裁者を演じたデイヴィッド・ザヤスの存在感と貫禄がありすぎて、エリック・バルフォー、スコッティ・トンプソン共に少々、食われかけていましたが、それでも頑張っていました。ドラマの『24』の捜査官役から、『寂しい時は抱きしめて』のような官能作品まで何でも魅力的に演じられるバルフォーが見た目は頼りがいのありそうなのに、ヘタレな役柄に扮したというギャップが素晴らしく、それは見所の一つと言えるでしょう。
現在、本作の続編となると言われている『Beyond Skyline』が製作されているそうで、そちらがどのようになっているのかが気になります。日本に上陸して、公開される時には、本作を観に行った時とは違って、ある種の覚悟が必要なのではないかと思うのですが、このパニック世界に変化が訪れるのかどうかを確かめられる日が来ることを期待したいです。
本作は万人にお薦めするのが難しい作品ですが、観る価値のある一作だと言えます。まだ観ておられない方は、是非、ご覧になってはいかがでしょうか。