「痛々しいほどに溢れた生命への執着心に観る者も歯を食いしばってしまう」127時間 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
痛々しいほどに溢れた生命への執着心に観る者も歯を食いしばってしまう
実在する探検家アーロン・ラルストンの実体験を基にしており、ドキュメンタリータッチで静かに追うスタイルは、奇抜さを売りにするダニー・ボイルの色が出にくい。
故に、万策尽き果て、自分の生い立ちを振り返っては、ネチネチと未練がましく悔いるネガティブモードに突入すると、皮肉っぽい人間臭さを得意とするダニー・ボイル節がようやく本領を発揮する。
現実と妄想と後悔をディープにシェイクしていくドライな苦味は、ダニー・ボイルならではの配合と云えよう。
紛れもない力作だが、オススメするべきか躊躇してしまう。
それは、崖の底から脱出するべく決意した彼の最終手段が、痛々しいぐらい生命への執着心に溢れているからである。
スクリーンから目を背けても、自分の体が引き裂かれていく気がして、体中の痛点が駆け巡る。
あまりの苦痛に耐えられず、顔が歪み、嗚咽を漏らしてしまった。
しかし、あの凄まじい衝撃度こそ、今作の全てではなかろうか。
「人間は生き抜いてこそナンボである」
と、醜いほどにストレートに投げつけた豪速球は、言葉では表現できない説得力と破壊力を放つ。
感動の域を超えたショックが心臓を鷲掴みにされた気がして、未だに胸がざわめく6月の暑い夜であった。
では、最後に短歌を一首。
『崖独り 溺れし悪夢 憔悴(小水)に もがく蟻の手 光めざして』
by全竜
ついでに、もう一首。
『独り旅 山あり谷(渓)あり 崖っぷち 墜ちれば登れ 空を契り(千切り)テ』
by全竜
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