劇場公開日 2011年3月5日

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「木を見て、森も見よ」アレクサンドリア ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5木を見て、森も見よ

2011年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

興奮

知的

「海を飛ぶ夢」などの作品で知られるアレハンドロ・アメナーバル監督が、「ナイロビの蜂」のレイチェル・ワイズを主演に迎えて描く、歴史物語。

近年になく、胸に爽やかな風が吹き抜ける映画である。あくまでも物語の本筋は、ギリシャ・アレクサンドリアに実在したと言われる優れた天文学者・ヒュパティアの波乱に満ちた生涯を追い掛けた作品である。しかしながら、そう簡単に説明できないのが本作の特殊さであり面白さである。

一人の美しき女性、ヒュパティアを巡る恋愛ドラマ、宗教を軸にした鮮烈な戦争絵巻、そして脈々と受け継がれていく人間の愚かさと、弱さの歴史物語と、多種多様なテーマを織り交ぜて描かれているのだが、全ての問題に対して作り手はじっくりと寄り添っていく視点を持っていない。地上で繰り広げられる些細な出来事・・「ああ、またやってるのね。懲りないわね」とでも言わんばかりに対岸の火事を決め込んでいる。

一人の人間が抱える心情を丁寧に描く事も出来ただろう。それでもこの物語は、上空から、あるいは地球を傍目から静観する「何か」の視点で見つめていく。それは、まるで兵士たちの暴動が、蟻の大群の砂糖を求めちまちまと右往左往する様子を連想させるよう仕組まれていることからも明確だ。

「何だよ・・他人事みたいに考えやがって」と腹を立てる観客もいらっしゃるかもしれない。それでも、今、目の前の利益、権益に目を奪われ、その場しのぎに一手を打つ某国家の在り方が、本作の人間諸君の言動にどこか重なって見えたりもする。世界を、未来を、傍観して捉える視野。木を見て、森も見る柔軟さ。そんな現代に立ち止まる私たちに求められる思考が、あっけらかんと示される爽快さ。

対象からとにかく離れ、離れ、ひたすら離れて大局を大雑把に描き切る勇気と力強さに満ち溢れた意欲作。若干長い作品だが是非、今、観て欲しい。

なんて難しい事を考えなくても、この世の者とは思えない美貌を惜しげもなく画面に撒き散らして宇宙に恋するレイチェル・ワイズの存在感と瞳に溺れるのも、また良し。う~ん、サービス満点である。

ダックス奮闘{ふんとう}