「映画の中で語られなかったこと」髪結いの亭主 捨て犬ちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
映画の中で語られなかったこと
1991年に映画館で見た。
毛糸のパンツで海水浴をしたら、さぞ股ズレが痛むだろうと共感した。
マチルドの髪が、肌が、瞳が、光るように美しかった。
女性の匂いや重みや温かさが、スクリーン越しに感じられるような気がした。
30年経ってもう一度見た。
毛糸のパンツ以外にも共感出来ることが多くなっていた。
髪結いの亭主になりたがる気持ち。
髪結いの亭主になりたがる子供を反射的に叩いてしまう父の気持ち。
髪結いの亭主になったと聞き、熱を出してしまう母の気持ち。
髪結いの亭主になった弟を祝福する兄の気持ち。
床屋の中を吹き抜けていく様々な客、それぞれの人生。
好きな人と一緒に暮らしを重ねていく幸せ。
好きな人と体を一つにする幸せ。
そうして、幸せの真っただ中で、幸せが怖くなって自殺をしてしまうマチルドの気持ち。
この映画の中ではマチルドの過去は消して語られない。
彼女はどんな両親に育てられたのだろう。
どんな兄妹がいたのだろう。
彼女はどんな男と付き合ってきたのだろう。
突然プロポーズをされてから、何を考えたんだろう。
冷たい水の中に落ちるまで、何を考えたんだろう。
もうこの年になったから判る。
答えなんか重要じゃないことが判る。
答えなんか重要じゃないけれど、いろいろ想像する。
そうしてスクリーンの中の様々な人生と、スクリーンの外の実人生が溶け合い交じり合っていく。
今度は何年後にこの映画を見るのだろう?
その時何を考えるのだろう?
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