劇場公開日 2011年2月5日

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「主演二人は素晴らしい演技を披露。しかし伏線を報知したままの雑な脚本に腹が立ちました。」私の愛、私のそばに 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5主演二人は素晴らしい演技を披露。しかし伏線を報知したままの雑な脚本に腹が立ちました。

2011年1月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 最近、涙腺が枯れてきたのかと思ったくらい泣けませんでしたねぇ。もちろんあたりの女性の観客は、号泣している人が多かったのですが…。
 小地蔵からすれば、ワンちゃんが、ころりころりと何匹も同じようにパターンと転がっているような作品に思えて仕方なかったのです。
 難病をテーマにして、愛する人が死んでいくというのが韓国映画の王道的パターンではあります。それでも泣かしてしまう作品が多いのですが、とりわけ本作は、冒頭から主人公が難病にかかっており、始まったときからラストが予想できてしまう致命的なところがありました。もう少し変化があっても良かったのではないかと思います。
 もちろん、全く変化が無かったわけではありません。
 筋萎縮性側索硬化症(以後ALSと略)の特徴として。神経や脳まで、硬化していくので、感情のコントロールが効かなくなり、ジュンウは次第に怒りっぽくなって、ジスを怒鳴りつけて、離婚まで言い出してしまうという展開がありました。ジュンウのわがまま言い放題にも、耐えて献身的に尽くすジスの姿が、なかなか感動的なシーンです。けれども韓国映画なら、もっとこのシーンでの過激で深刻に描かれてもいいのではないかと思います。よくある邦画作品レベルで、ラストの寝たきりシーンにつないでしまうのは、インパクトが弱い気がしました。
 ジュンウのわがまま言い放題状態に繋げる伏線も、中途半端なところが気になります。 ジュンウに先立ち、病室の隣の少女が、フィギアスケートの練習中の事故により、オリンピック出場の夢が絶たれたショックで、母親に当たり散らすところが挿入されます。ジュンウはそれを諫めたことにより、ふたりの間に信頼関係が生まれますが、それっきりで終わりました。
 また、ジュンウの臨終シーンでは、尊厳死の問題も挿入されています。これも同じ病室で、植物人間となった美人妻と、それを必死で看病する中年の夫が描かれます。いつか妻の復活を信じてやまない夫でしたが、そこには深刻な入院費を巡る経済問題が忍び寄っていました。尊厳死の是非や、長期の入院が家族に襲いかかる深刻な経済的負担の問題を、ジュンウと同室の病人のエピソードとして、様々に問いかけを試みているのは理解できます。けれども、本作ではどエピソードも、伏線になっておらず、中途半端で終わってしまうのです。
 結局、結末が見えてしまい一本調子になりがちなメインストリートに、何とか変化を付け加えようともがいたような、エピソードの数々だったのです。この雑な伏線処理に、腹が立ってしまい、小地蔵は泣けませんでした。

 本作の謎の一つに、ジュンウが余命僅かとわかっていて、なぜジスは自ら一夜を共に過ごそうというなど、積極的にスピード結婚に突き進んでいったのでしょうか。ちょっとその辺の心境の描き方も不十分なのですが、分からなくもありませんでした。ふたりが元々幼なじみで、仲が良かったこと。そしてジスは、×2であったことと葬式ディレクターという仕事に引け目を感じていたのに、ジュンウはそれを全く気にしなかったことです。
 ジスの仕事とは、死人を清め、化粧して送り出す仕事。かつての夫たちは、そんな死人を扱うジスの手を忌み嫌ったあげく、離婚してしまったのでした。そんな手を世界で一番美しいと、ジュンウは褒め称えます。ジュンウの優しさに、ジスが惚れ込んでしまったのはは、分かる気がしました。
 ところで、ジスの仕事ぶりを描くところは、まさに『おくりびと』を彷彿させるもの。バクルなら、もっと徹底的に韓国版『おくりびと』に徹しても良かったのではないかと思えました。それでも、愛する夫に死化粧を施すラストは、感動的。『おくりびと』のラストシーンを思い出してしまいました。

 難病で死んでゆく話なのに、本作はジュンウとジスのやりとりがラブコメタッチで、軽妙です。それを支えているのが、ジス役ハ・ジウォンの独特の雰囲気です。『TSUNAMI-ツナミ-』でも、そう思えましたが、彼女が出演しているだけで、ぱっと画面が明るく感じられてくるのです。
 本作でも、ジュンウがどんな状態になっても、ツンデレ気味に愛嬌振りまくジスを魅力たっぷりに演じています。
 また、演技のため20キロも減少しガリガリになっていくジュンウ役のパク・チンピョの病人としての演技も素晴らしかったです。あの長身なのに、病室のベッドで表示されていた体重がホントに51キロしかありませんでした。

流山の小地蔵