「オタク映画というよりは、むしろサラリーマン映画」僕達急行 A列車で行こう マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
オタク映画というよりは、むしろサラリーマン映画
森田芳光監督といえば、「家族ゲーム」(1983)から始まり「武士の家計簿」(2010)まで、なにか特定の職業や環境にある人間たちの習性を観察的な眼で追った作品に定評がある。
今回は、鉄道オタク(通称“鉄ちゃん”)の若者二人を追った作品・・・という触れ込みだったが、観てみればサラリーマン(会社組織)を描いた作品だ。
それも、もしかしたら往年の東宝作品、森繁久彌の「社長漫遊記」やクレージーキャッツの「無責任シリーズ」「日本一シリーズ」のような色合いを意識していたのかも知れない。
実際、のぞみ地所の社長(松坂慶子)を取り巻く幹部社員に社長秘書といった面々は、そういう作品の色合いを出している。
ところが登場人物の相関が芋づる式に安易に繋がっていき、趣味が昂じて商談がトントン拍子に運ぶ有り様は、むしろ「釣りバカ日誌」のノリだ。
海を連想させる名を連ねた「サザエさん」のように登場人物の名を電車の“愛称”でまとめ、小玉(瑛太)の携帯の着メロが京急のモーター音だったりと“鉄ちゃん”的な設定が随所に見られて楽しい。
若い人は分からなかったかも知れないが、伊東ゆかりが登場するシーンでは『小指の想い出』のイントロが聴こえ始めた瞬間に吹いてしまった。
小玉の父親(笹野高史)のキャバクラ好きにも笑える。
それでも森田監督が撮りたかったのは「釣りバカ日誌」ではなかったはず、そう思えてならない。
いろんな路線の電車が出てきて、ロケーションがいいショットが続き、どれも一度乗ってみたい気分にさせられる。
ただ、役者が乗っているシーンはクロマキーによる合成が多く、映画を観ながら小町や小玉らと一緒に旅する臨場感に欠けたのが残念。
《お詫び》
最初の投稿の際、クロマキーによる合成が多々見られ、臨場感にかけるという記述がありましたが、製作に関わった方の奥様から“すべてロケで撮影したもの”というコメントをいただきました。
デジタル上映でそのように見えたのかもしれませんが、誤った記述をしたことをお詫び申し上げます。
おっしゃるとおり
おっしゃる通りです。1960~1970年代のサラリーマン映画へのオマージュ作品だとおもいます。カメラアングル 証明 メイク 冗漫な台詞まわし 音楽 編集のすべてにおいて、今にも高嶋忠夫 小林圭樹 三木のり平 フランキー堺が出てきそうでした。
多分森田監督が中学生から高校生ぐらいに見た昭和日本のコメディ映画のかおりをほぼ完璧に再現したのではないでしょうか。いつも野心的な映画をめざしておられたようにおもいます。もちろんオーソドックスなな映画を撮った時もきちんと、すきのない映画でした。私の思い出はやっぱり「のようなもの」「家族ゲーム」が衝撃でした。
普通に考えると森田監督の若いときに一番真似をしてはいけないタイプの映画でしたね。ですから瑛太やマツケンにあのセリフ回しを、よく指導できたなあと。思うし二人もよく素直に演技したとおもいます。