「真っ直ぐ、輝く、ひたむきに」サラエボ,希望の街角 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
真っ直ぐ、輝く、ひたむきに
「サラエボの花」などの作品で知られるヤスミラ・ジュバニッチ監督が、美貌の女優ズリンカ・ツビテシッチを主演に迎えて描く、ラブストーリー。
誠実な、それでいて作品への強い自信が満ち溢れた作品である。本作の舞台である「ボスニア・サラエボ」。多くの観客にとって馴染みの薄いこの都市を印象付けているのは、やはり「ボスニア内戦」だろう。
戦争という色眼鏡をもって関心を持たれている街を舞台にするならば、多くの作り手は内戦、戦争によって受けた傷、痛み、葛藤を軸に展開し、観客のある種の同情と好奇心を刺激する内容へと流れていくはずだ。
しかし本作の作り手は、敢えてその「王道」へと走らない。極めてスタンダードに、一組のカップルが辿る恋愛ドラマを前面に押し出していく。物語の端々には美しい街灯に彩られた街の風景、温かい色の外壁が気持ちよい目抜き通りを挟み込み、「田舎の小都市、サラエボ」の穏やかな空気を無駄なく描き出す。
もちろん、宗教の違い、登場人物が内戦時に抱えた傷が物語のテーマとして含まれているのだが、それはあくまでも「要素」である。主張は恋愛の難しさと、美しさ。そして、人間の面白さ。「私達、こんな苦しい過去を抱えているんですよ・・」とお涙頂戴に走る事無く、観客に対して真っ直ぐ、ひたむきに愛を語る。清々しい「売れる要素に縛られた作品作りへのささやかな抵抗」が本作の魅力として輝きを放つ。
とにかく、主人公の女性が思わず目を見張る端正な顔立ち、身体つき。不遇を連想させる要素をそぎ落とした魅力の塊である。力強く、同情を拒絶した作り手を反映するような美しさ、活力。彼女を観るだけでも、価値はある。
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