「偶然は必然だからこそ。」クレアモントホテル ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
偶然は必然だからこそ。
名画座にて。
本国では2005年に公開、ずいぶん時を経てこちらにきた作品である^^;
いかにもイギリス~という佇まいが大切に描かれた作品。
滞在するホテルはやや侘しくてもそこに集う「ご臨終禁止」の老人たち、
そのユニークさと抱える孤独、不安、他人への興味でしか毎日の暮らし
を長らえることができない現実、巧く織り交ぜた上品なヒューマンドラマ。
主演のパルフリー夫人を演じたのはL・オリヴィエの奥方J・プロウライト。
最愛の夫を亡くし、娘の擁護から離れ、ロンドンのホテルで独り暮らしを
始めたパルフリー夫人。なぜ彼女がここへ来たのかは幾度も語られるが、
決して不幸な生い立ちの夫人でないことが明らか。余程の年金か遺産が
なければ(いくら安ホテルだとしても)長期滞在なんてできないことである。
ひとりの女性として晩年を過ごしたい、とはいえ、今まで娘や孫に囲まれた
生活から他人だらけの生活、見渡せば孤独な老人ばかり。つい公文館に
勤める孫のデズモンドを自慢してしまった彼女はいつまでも現れない孫の
ことが気がかりでならない。そんな矢先、歩道で転んで怪我をした彼女に、
親切にしてくれた青年・ルードと出逢い、孫のふりをして欲しいと頼むが…
彼女の高級な出で立ち、青年のイケメン度^^;、その彼女のアイドル度^^;、
まぁあり得ない程の配役の妙なのだが、抱える家族間の問題や将来への
不安など、描かれる生活感はどれも身近なものばかり。
母親の期待に添うことができず、未だに売れない作家志望のままの青年、
意を決して夫人に付き添ってもらい母親に逢いに行くが…。
娘や孫に追い出されたワケでもないのにホテル住まいを希望する老婦人、
独りになればなったで思い出すのは夫との歳月、自分に寄り添ってくれる
疑似孫^^;に心を寄せるが、彼はやがて若い彼女との生活に忙しくなる…。
おそらく人間はどこにいようが、誰といようが、独りなんだと私は思う。
孤独はきってもきれない親友のようなもの。自分に心を寄せてくれる人間が
多く傍にいることは幸せなことだが、それは永遠に続くものではないのだ。
孤独を愛せよ。とはいわないが、自分と向き合うには独りになるしかない。
ホテル住まいの老人たち、一見可哀相で仕方なく見えるが、いずれ誰もが
ああして何かを失い、独りになり、孤独と向き合って生きることになるのだ。
ホテルでボス扱い?だったアーバスノット夫人がついに倒れた時、
おそらくあそこにいる誰もが、何れ自分に同じ運命が訪れるのを実感した。
老婦人と触れ合うことで、青年も大きな心の成長を遂げる。
彼女を題材に一気に小説を書き上げた彼は、臨終間近の夫人の枕元に置く。
病室の外では実娘が看護師ともめている。なぜ早く知らせてくれなかった?
という娘に、ずっとお孫さんが付き添っておられましたよ…?には笑えた。
遠くの親戚より近くの他人。とはこんな時のためにある言葉か?と思った。
人生の終焉という寂しいテーマのみかと思えば悠然としたコメディでもある。
心臓に注意!と題した米国産ホラーを娯楽室で見るというので何かと思えば、
「セックス・アンド・ザ・シティ」だって!あまりに納得できて大笑いした。
(人生の終わり。がこんな風に迎えられるなら、それはそれで幸せなことだ。)