劇場公開日 2011年4月16日

「『1911』よりアクションも、ヒューマンストリーもこちらが面白い!」孫文の義士団 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『1911』よりアクションも、ヒューマンストリーもこちらが面白い!

2011年11月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 『1911』の公開に合わせてレビューアップしました。
 中国の役者にはあまり詳しくないのですが、識者曰く、これは香港版の『エクスペンダブルズ』なんだというのです。それくらい豪華なメンバーが結集して、画面狭しと活躍する作品。
 とにかくセットの精巧さには度肝を抜かれます。どの角度からカメラが当たっても、奥の方まで当時の街角が再現され、びっしりと物が置いているのです。雑踏には通りの先まで人がぎっしり。その街角を孫文を乗せた人力車が敵襲を避けながら疾走していくのですが、ノーカットで切れ目なく背景のセットを見せていくのです。どれだけ規模のでかいセットを組んだものか想像もつかないほど、20世紀初頭の香港をリアルに再現していました。(ちなみにセットの制作に8年かかったのだそうです。)
 孫文暗殺未遂事件は史実にはあります。しかし本作の大部分はフィクション。1911年の辛亥革命前夜の香港を舞台に、孫文を暗殺団から守るために命をかけた人々の活躍が描かれます。本作は、暗殺団との義士団との激しいカンフーアクションだけでも凄いのですが、義士団となる人々の決死の決意と家族との別離に思わず涙してしまうヒューマンドラマでした。
 特に後半から孫文が香港に到着してからはノンストップのアクションシーンがたたみ掛けて圧巻です。単なるアクションでなく、人力車が全力疾走するスピード感に、街のあちこちのセットが爆発したり、雪崩のように崩れ落ちたり、ありとあらゆるものがパンドラの箱を開けたように孫文の一行に襲いかかるのです。
 『1911』を見て、不満に思った人でも、これをDVDでご覧になれば、大満足するして溜飲を下すことになるでしょう。

 物語は、1906年腐敗した清朝打倒を掲げ、武装蜂起の計画を練るため、孫文が香港を訪れることになります。一方、北京の西太后は500人の暗殺者集団を差し向け孫文を暗殺を画策します。
 新聞社社長で中国同盟会の香港支部長・シャオバイ(レオン・カーファイ)は、支援する実業家ユータン(ワン・シュエチー)資金援助を要請。そして、孫文を守るために自分を慕う若者たちや名もない庶民を集めて護衛団を結成することに。
 『1911』では駆け足過ぎて空回りしていた、革命に対して未来ある若者たちが犠牲になっていく展開は、伏線もしっかり描かれて、かけがえのない一人を守るための思いが見ているものにもよく伝わってきました。そんな犠牲の精神は、押しつけがましいものになりがちですが、それぞれの「運命の日」となる孫文来訪に向けて一丸となっていく姿がよく描かれているのですね。
 特に資金援助者であるユータンと同盟会の活動家であり、孫文の影武者になってしまう息子・チョングアン(ワン・ボーチェ)との親子の葛藤はなかなか泣かされる展開でした。 ユータンは息子には、跡継ぎとして革命から離れて、生き残って欲しかったのです。そんな革命から腰の引けていたユータンと義士団を指揮するシャオバイが来訪前夜に酒を酌み交わし、ホンネをさらけ出すところもよかったです。ユータンも最後は覚悟を決めていたのを悟った、シャオバイが男泣きするのですね。
 あとで義士団に追加参加する車夫・アスーと彼が見染めた写真店の娘・チュンの来訪前夜の慌ただしく写真を撮影するところも泣けてきました。孫文さえ守り通すことができれば、結婚式に向かえるというのに、彼はそれでも志願してしまうのです。
 路上生活者のリウ(レオン・ライ)は、個性的なキャラ。元は大富豪の跡取り息子だったのにホームレスに落ちぶれていたという設定なんです。ところがこの男、いざとなったら脱いだら凄いのよ!とばかり、カンフーの使い手ぶりを発揮して、多数の暗殺者集団の侵入をひとりで受け止めるのです。このカンフーシーンもなかなか見応えありました。
 またカンフーシーンでは、若い警官役のドニー・イェンの重力を無視したかのような
空中殺法が凄かったです。

 本作で興味深いのは、革命の理念などろくに知らない一般の庶民が、命を投げ出して孫文を守り抜こうとするところです。それが嘘くさく見えないようにするため、参加する義士ひとりひとりの参加の理由を、伏線としてしっかり描けています。
 父とのトラウマに悩み、父に反抗するため、あるいは愛する女性のため、また別な人物は、悲しい過去を清算すし自分という存在を証明したいため、参加する義士たちの多くは革命の理念とは違う個人的な事情を抱えて、一命を投じたのでした。それがやがて革命に繋がり歴史を動かすことになるとは、何とドラマなんでしょう。

 歴史に埋もれがちな一介の庶民たちが、孫文を守り抜き、歴史を動かしたというダイナリズムを本作から感じ取れることでしょう。

流山の小地蔵