「美しい最期。」BIUTIFUL ビューティフル ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい最期。
開始序盤に「ん?これって霊との対話?オカルト?」的な描写があって、それで直ぐに分かるんですけど、ハビエル・バルデム演じるウスバルは霊能力者という設定なんですよね。だからストーリーもそっちに引き摺られるのかな、と思いきや、その考えは浅はかでした。
勿論、それも重要なファクターではあるんだけども、物語の重きはそっちじゃなくて。スーパーナチュラルで解決出来る程、リアルは決して甘いモノでは無くて。
裕福とは呼べず、問題だらけの環境で、慈愛に満ちた男が、余命僅かの中、家族と仲間を守ろうとする―その生き様なんですね、話の軸は。淡々と、それでも情熱的に。聖人の如く。
彼の詳しい生い立ちは分からないし、何故、今の様な苦境というか、まるで底辺を這う様な生活をしているのか、犯罪紛いの仕事に手を染めてるのか、詳しい説明はないです(彼の父母の話や妻との馴れ初めなんかは出てきます)。
まあ、冒頭の巧みな注射捌きで、どういう人生だったのかは、微妙に示唆されたりしてますけども。
でも、そこは問題じゃなくて。
この状況をどう打破すべきか、どうやったら皆が幸せになれるのか。彼の行動原理がほぼ自己犠牲。それが兎に角、胸を打つ。
なのに、彼の努力はいつも空しくて、状況はどんどん悪くなる。それと反比例するが如く、画面一杯に広がる空の色や雪景色、街並はやたらと美しくて。この、皮肉。
やがて犯してしまう、致命的で取り返しの付かないミス。
何も解決せず、山積する放り出された問題。
誰も救済できない最後。
最期。
ああ、それでも彼は救われたのか、と。
天国は、誰にも平等に美しいのか、と。
静かに、さり気なく張られてきた伏線が、ここに全て帰結してる。
本当に良かった。世界はやっぱり美しいんだ。彼は肯定されたんだ。
素敵な結末に、涙がそっと浮かびました。