「満島に、溺れる。ウサギに、震える。」ラビット・ホラー3D ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
満島に、溺れる。ウサギに、震える。
「呪怨」などの作品で観客を震え上がらせてきた清水崇監督が、「愛のむきだし」の満島ひかりを主演に迎えて描く、ファンタジーホラー作品。
小学校、校庭の片隅。埃まみれの飼育小屋の片隅で「ぶ~」と鳴いてるあいつ・・そう、ウサギである。もこもこした風貌でいつも学生に囲まれている人気者だが、じっと見つめるとあの眼・・真っ黒で真っ直ぐなあの眼。どうも、冷酷に私達を観察しているようで何だか怖いと感じていたのは思い出す。怖い・・けど、可愛い。いかがわしい存在である。
本作の作り手も、私と同様の感情をウサギに対して抱いていたように思えてならない。過去にとある事件がきっかけに言葉を失ってしまった一人の女性。彼女が迷い込む夢と幻想の迷宮を支配するのは、つぶらな瞳のウサギ。
つかめそうで掴めない危険な創造の薫りが物語からぷんぷんと溢れ出す世界にあって、ウサギを前面に押し出してきたのは必然ともいえる。
特徴的な高音と、かすれ気味なハスキーボイスで様々なドラマの中にあって特異な存在感を示してきた満島が、今作ではその最大の武器である声を封印。華麗かつ幼さを残す容姿一本で挑む挑戦作であり、今後の女優としての幅を広げていくという意味では、重要な意味を持つ作品となるだろう。
可憐な自らの風貌を自身もしっかり認識しており、妖しさと未熟さが同居する不思議な魅力をたっぷりと楽しませてくれる。
幻想と破滅の美学が貫かれる異能の撮影監督、クリストファー・ドイルの個性が存分に引き出され、人間が闇に抱える痛み、快楽、憎悪を遠慮なくスクリーンに叩きつける黒々しいエネルギーが満ちる作品であるために、ホラーとしてのシンプルな驚愕を求める観客には、食い足りないものがあるかもしれない。
それでも、心の奥へ、深く深く分け入って観客の感覚を刺激する妄想空間。新鮮な創造力の可能性を味わえるので心地よい満足感がある。キャスト、スタッフ相互の個性と、作品を更に良くしようとする創意工夫が機能するファンタジー。ちょいと進化したという3Dの新しい表現を味わえる上でも、最注目の一本だ。