劇場公開日 2025年1月17日

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「震災、他者、名もなき夜の追悼、そして……。なぜか時々見返したくなる、忘れられない映画」その街のこども 劇場版 コタツみかんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0震災、他者、名もなき夜の追悼、そして……。なぜか時々見返したくなる、忘れられない映画

2025年3月7日
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たまたま同じ新幹線で、神戸の街に下車した若い男女がナンパで知り合い、飲みに行く。が、2人はそれぞれがそこそこにイケすかない感じで、まったく話がかみ合わない。なのに、すでに終電はなくなり、行きがかり上、2人は互いに気まずさを覚えながら、家をめざして夜の街を歩き始める。

その夜の街を歩く2人の会話劇から被災地・神戸や15年後も残る震災の爪痕、それに2人が抱える心の傷が徐々に立ち上がってくるのだが、この会話がもう全部アドリブですか?というほどに不完全でナチュラル。実際、主演の森山未來と佐藤江梨子は子ども時代に神戸の震災を体験しており、物語やセリフには2人の思いやエピソードが多分に盛り込まれているようで、どこまでがリアルでどこからがドラマなのか判然としない斬新なつくりになっている。もっと言えば、「この物語、どこに向かってます?」という先の読めないサスペンスさもあって、深夜の街を歩く2人から目が離せなくなる。

間違っても彼氏彼女にはなりそうもない全き他者の二人が、一晩だけ道行きを共にし、相手の荷物を持ち合ったり、誰にも話せなかった思いを吐露したりしながら、それぞれがちょっと気を許してラクになり、モノクロの心にほんのり色が灯る。そして、早朝の追悼集会場で不意に別れる2人の表情が、胸を打つ主題歌の旋律と相まって、観る者に深い余韻を残す。

何がいいのかと聞かれたら明快には答えられない、でもなぜかいつまでも忘れられない映画である。

コタツみかん