「ジャージを着ていても、ドヌーヴはドヌーヴ(笑)。」しあわせの雨傘 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
ジャージを着ていても、ドヌーヴはドヌーヴ(笑)。
コメディーを演じたかったドヌーヴが嬉々として演じる、単なるお飾り妻(原題=飾り壷)のスザンヌが政治家になるまでを描いたハートフルコメディー。
相変わらずオゾン監督は女性を描くのが巧い。亭主関白な夫の言うなりになって、ジョギングと詩作と刺繍に精を出す専業主婦。自ら行動し意見するなどとんでもない、雨傘工場を経営する夫の影にかくれ、それなりに満ち足りた生活を送っていた・・・はずだった・・・夫が心臓発作で倒れるまでは。70年代のフランス、女性の地位はまだまだ低かった。夫に代わって雨傘工場を経営するなど考えられない時代。しかし、飾り壷だった妻は、夫とは真逆な経営方針で、傾きかけた工場を立て直す。面白いのが経営学を学んだことも無い彼女が、社員と信頼関係を築き、リストラを一切せずに運営していく。
ありえない話といってしまえばそれまでだが、心から彼女を応援したくなる。
通常ならワンマンだった夫が失脚してメデタシメデタシになるのだが、オゾン監督がそんなセオリー通りの映画を作るはずがない。帰ってきた夫によって彼女は再び飾り壷の座に逆戻りするのだが、一度壷から流れ出た水は元には戻らない。離婚を決意した彼女は、女性の地位向上を訴えて、何と議会に立候補する。
日に日に活気付き輝いていく妻に比べて、「してやったり」のはずの夫がどんどんしょぼくれていくのがおかしい。離婚協定中であるにもかかわらず、情けない顔で妻のベッドに潜り込んで来る夫が何だかカワイイ。オゾン監督は男性の情けなさを描くのも実に巧い。
女性上位時代の到来を高らかに謳いあげた女性賛歌の秀作だ。
余談だが、当選したスザンヌが白いスーツで登場した時に「蓮舫?」、さらに公約に“友愛”を掲げるので「鳩山?」と思ったのは私だけではあるまい。まさかオゾン監督が民主党の小ネタを知っているはずもないが・・・(笑)。