「とにかくあの手この手のアイディア満載で、観ている側を飽きさせません。」[リミット] 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
とにかくあの手この手のアイディア満載で、観ている側を飽きさせません。
昨年の『パラノーマル・アクティビティ』のヒットで、体感型のワンシチュエーションスリラーがブームになってきたと思われます。本作も、なかなかの傑作でした。何しろ、最初はながらでDVDを観ていたのですが、途中で引き込まれて、ついつい本気で食い入るように観てしまったほどなのです。
舞台は、暗い棺桶にラストまで閉じ込められたままという制約のなかで、とにかくあの手この手のアイディア満載で、観ている側を飽きさせません。
ただ閉じ込められているだけでなく、残存空気が90分という時限パニックが加わります。それだけでも充分なのに、さらに中盤では、毒蛇が主人公のポールを襲おうと登場します。蛇を退治しよと油を蒔き散らして火を放ったところ、誤って棺桶内部に火が燃え移ったり、次々と難題がポールを苦しめます。極めつけは、棺桶が壊れて、上部から砂が内部に降り注ぎ出し、ポールを埋めてしまうほどの勢いになっていくことです。
ラストはとても意外な結末。ぜひレンタルでお確かめください。そうきたか!という終わり方でした。
そして、ポールが埋められた理由も、巧みでした。アメリカ国内では、あり得ない話。それをイラク戦争後のイラクで働く、民間企業のトラック運転手がテロに襲われたという設定で、見事にあり得ない状況を説明しきってしまいました。
ところで絶望的な状況のなかでホールにも希望がありました。携帯電話がなぜか棺桶に入れられていたからです。これでポールは、勤務先から、自宅の妻、そしてFBIから果てには、国防省にまで電話をかけまくります。
ここでのやりとりも、一筋ならでは行かせないところが演出の上手いところ。妻は外出中だし、妻の友人に伝言を頼んでも、さっぱりポールの状況を理解してくれない。勤務先も、、たらい回しにされて、いたずらに携帯電話の残量が減っていくのに苛つくばかりのポールでした。
やっとの思いで、国防省の拉致担当に連絡がついて、救出の確約が得たものの、担当者の役人根性からか無責任で調子良いことばかりの羅列で、余計にポールを失望させるものでした。
携帯電話での拉致担当との僅かな会話のやりとりから、イラク戦争の戦後処理への社会風刺と政府の官僚的体質の非人間性を糾弾する意図が見え隠れしていましたね。
また携帯電話は、ポールにとって脱出の切り札ではありましたが、誘拐犯がポールとの連絡手段にわざと加えていたものだけに、閉じ込められてからも、脅迫が加わり、緊迫感が募っていきました。
ところで、いくら土中に閉じ込められているとはいえ、暗闇のままでは映画として整理できません。そこで、オイルライターや発光ダイオード、そして携帯の明かりなど、ポールが手にすることの出来た光を発するモノを常に使い続けていました。思ったほど真っ暗なシーンは少なかった工夫は、特筆ものです。
最後に、閉所に閉じ込められるとパニックを起こすポールのキレぶりは真に迫り、ライアン・レイノルズの演技力の確かさを感じさせてくれました。