「・・・散る!!」[リミット] ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
・・・散る!!
ロドリゴ・コルテス監督が、「X-MEN」での好演が記憶に新しいライアン・レイノルズを主演に迎えて描く、シチュエーション・スリラー。
日本を代表する名優、緒方拳の最期は壮絶だったという。薄暗い病室で、彼は天井を睨み、瞬き一つしないままに家族の前で、人生という舞台を終えた。その散り様は役者という生き方に生涯をかけた男の、大団円の演技に思えたと、誰かが話していた。
本作の主人公、ポールに対する余りにも情け容赦ない仕打ちに触れると、自らの死を想う時間が与えられた人間は幸福であることを実感する。何の前触れも無く絶望の淵に追いやられ、助かるかもしれないという小さな可能性がこれ見よがしに与えられ、その役割の無意味さを知る。
少数の人間と、一つの舞台で構成されるサスペンスはこれまでにも数多く生産され、観客を恐怖のどん底に追いやってきた。しかし、本作はそれら多くの作品と趣を逸している。それは「顔が、見えない」。その一点に尽きる。
他人の顔を見て罵る、誰かの顔に向けて話して安心する。敵であれ、味方であれ、目の前に息をしている人間がざわざわしているだけで人は自らの「生」を意識できる。どんなに身体が傷ついても、生き物の温度を感じられるだけで、「現世」を思える。
だが、本作の場合はそうはいかない。目の前には携帯電話から伝わる無機質な声。壁。砂。心を休めてくれる光は心もとない。自分が生きている、誰かに見られているという安心感がそこにないなら、生物としてこれほど心が病む状況はないだろう。もしや・・死んでしまうんじゃないか?思えて然り。
大団円は、誰かにあざ笑われつつも見ていて欲しい。それが人間の本質的願いだと思えてならない。それも許されず、微弱な光の中で散る。スリラーという恐怖よりも、胸をかきむしるような寂しさが支配する世界である。
散ることを潔く受け入れて、迎えたい。そのために必要なものが身に染みてくる、冷徹な視線が光る一品だ。