一枚のハガキのレビュー・感想・評価
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「どういう知り合いですか?」「戦友です」
映画「一枚のハガキ」(新藤兼人監督)から。
戦争を経験した人たちにとっては、たぶん・・
思い出したくないシーンの連続だったかもしれない。
「撮影当時98歳という日本最高齢監督の新藤兼人が、
自らの実体験をもとに引退作として製作した戦争ドラマ」
そんな説明にもあまり実感がなかった私だが、
隣で観ていた老夫婦が、涙を流しながら観ていたので、
これはフィクションではなく、現実に近い描写なんだと、
驚きながら、メモをすることになった。
いくら戦争とはいえ、自分より歳が離れた若造に、
「貴様らは・・」と呼ばれることに、抵抗はなかったのか。
「スルメをかじって、鬼畜米兵をやっつけろ」
そんな滑稽なシーンが、なぜか笑い話にならず、
し~んと静まる雰囲気に、当時の悲惨さが伝わってきた。
この気になる一言に残そうと思ったフレーズは、
「どういう知り合いですか?」「戦友です」という会話。
もうすぐ、こういう会話が交わされなくなると思うと、
まだ67年しか経っていないこの悲劇を、どんな形でも
この世に残そうとした新藤監督の気持ちが伝わってきた。
「戦友」って、私たちが簡単に使える単語じゃないなぁ。
一枚の命運。
御歳99歳の新藤兼人監督、これが最後の作品だという渾身の一作。
若い人がどのくらいこの作品を観るかは分からないが(観て欲しい!)
これが99歳の撮った映画か!?と思うほどの完成度を堪能できる。
内容が内容だけに、どうしても中高年をターゲットにした感が強いが、
ストーリーの巧さ、映像の流麗さ、コミカルと絶望のリズムの合わせ、
どこをとっても素晴らしいの一言。若干、叫び声が大きい気はするが^^;
大竹しのぶと豊川悦司という(監督にしてみれば)若い組み合わせながら
実力派だけあって、さすが!の演技を見せてくれる。特に大竹しのぶ!
監督の実体験だという主人公の体験を通し、戦争の愚かさと命運の意味、
幾度も繰り返される徴兵と遺された家族の在りさまを学ぶことができる。
それにしても…。
大竹が演じた友子という女性。つくづく運がないと言ってしまえばそれまで、
しかしよくぞ文句も言わず(当時は皆そうかもね)嫁として耐えたと思う。
夫を失い、再婚した弟も失い、義父と義母をも相次いで失う。
もしも戦争がなかったら、徴兵されなかったら、まだこの家族はどこかで
続いていたかもしれないのに、無残にも友子を遺して皆亡くなってしまう。
ぽっかり穴が空いた(おそらく)心をひた隠し、ひたすら黙々と生き続ける
友子の前に、ある日突然、亡き夫の戦友だった松山(トヨエツ)が現れる。
くじ引きで…(この運命の使い方がかなり効いている)
夫は戦地へ赴き死亡、松山は戦地から外れてお掃除部隊、結果100名中、
生き残った6人の中に入った。そして松山も意気揚々と自宅へ戻るのだが、
彼にもまた過酷な運命が待ち受けていた…^^;(これもあんまりだよね)
どこをとっても、ありそでなさそな男と女の世界、情念と愛憎が積もり
積もった異様な緊張感で盛り上がるところが見せ場。脇も皆、巧すぎる!
友子に言い寄る村の世話役、大杉蓮(吉五郎)のしつこさと厭らしさも絶品^^;
誰がアンタの妾になどなるものか!と突っぱねる友子との丁々発止、そこへ
松山が絡んで大乱闘!となるところはもう漫才舞台の世界!こんなに悲しい
出来事が続いたというのに、観ているこちらはゲラゲラと笑い転げてしまう…。
この人間らしさ。愚かさ。バカバカしさ。
すべてがうねるように結ばれるラストの場面、まるで絵葉書を見ているような
光景に溜息を洩らしつつ、なんて力強い人間のしぶとさと強靭さに感激する。
だから日本人は、戦後、これだけ豊かに生き長らえてこられたんだ…よね。
今また数々の災難苦難が襲いかかる日本だが(本当に今年は…)
諸外国のメディアや多くの激励には、日本は必ずやまた立ち上がってくる、と
日本人の底力を賛美するところが大きい。まさに今作の大竹しのぶがそれだ。
多くを語らず悲観はしない、暴動にも走らない、ただひたすら食べて、働いて、
死ぬまでガンガン生きてやるんだという姿が今日の日本を作った。見習いたい。
ところでタイトルにもなった一枚のハガキ。
ここに書かれた一文は、夫への最高のラブレターだと思った。夫の返事が
松山だった、というくじ運の強さ(で、いいよね?)を明示したところがニクイv
(しかし男性っていうのは筆不精多し?ガンガン気持ちをアピールしたまえ!!)
99年を費やし、到達した結論は、《死の美学への全否定》
反戦を謳っているが、生々しいメッセージ性はさほど重くなく、クジ一枚で戦地を易々と決められ、命を簡単に見捨てられる戦争のバカバカしさを徹底的に描いており、皮肉っぽい滑稽な人間描写が多く、意外な面白さを感じた。
出征式で見送るや否や、速攻で、お骨が返ってくる異様なスピード感こそ、戦争が如何に無意味で非情な愚行であるかを象徴していると云えよう。
恋敵の大杉漣との格闘場面は、ちとオーバーで違和感たっぷりだったが、女をめぐって殴り合っている時の方が、同じ闘いでも、戦争なんかより遥かに生き生きとしていて、人間らしいと教えてくれて、劇場内は笑いが多くこぼれた。
戦争後、同じ境遇を悲しむのではなく、笑い飛ばすエネルギーを大切にしなければ何も始まらないというメッセージは、体験者でしか作れない貴重な説得力やと思う。
改めて、戦争はキチガイの極みやと実感したところで最後に短歌を一首
『夏の背を 御國の為に 見送れば 待ちぼうけのクジ 風情なく抱く』
by全竜
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