「ヴァネッサ・レッドグレイヴの瞳」ジュリエットからの手紙 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
ヴァネッサ・レッドグレイヴの瞳
ヴァネッサ・レッドグレイヴが観たい!ただそれだけで劇場に足を運んだ。物語の主軸は若い女性が旅先で真実の恋にめぐり合うというありふれたものだが、そこにレッドグレイヴ演じる熟年女性が50年前の恋人を探す旅に出るというサイドストーリーによって、本作が単なるラブストーリーに終わらない深みとなる。
イタリア、ヴェローナ。『ロミオとジュリエット』の舞台となったこの地に、婚約者とプレ・ハネムーンにやって来たソフィー。しかし婚約者はオープンを控えた自分のレストランのための食材探しに奔走し、彼女をほったらかしにする(余談だが、ガエル君はこういう自分勝手なお気楽野郎が何てピッタリなんだろう←失礼。まあ見方を変えれば仕事熱心な青年ともいえるのだが・・・)。ジュリエットの生家を訪れたソフィーは、その壁に何千と貼られているジュリエット宛の手紙を眼にする。全国から寄せられたその手紙は「ジュリエットの秘書」たちの手で一通一通全てに返事が書かれているのだ。ちなみにこれは実際の話。世の中には恋に悩む女性(男性も)が何と多いことか!中には深刻な内容の手紙もあるという。そんな時には秘書たち全員でできるだけ最良の答えを導き出し返事を書くのだという。ボランティアである彼女たちの真摯な気持ちに心が温まる。
さて、ソフィーがそこでレンガの奥に隠されていた50年前の手紙を見つけたことから物語は進展する。返事を書いたソフィーの元へ、当の本人がその時別れてしまった恋人を探したいと孫息子を連れてやってきたのだ。レッドグレイヴが画面に登場するだけで、独特の雰囲気が醸し出される。大女優である彼女は長身でガッシリした体格であるにもかかわらず、夢見るような瞳が何とも魅力的だ。70歳を越えているが少女のような初々しい青い瞳に吸い込まれてしまう。彼女の浮世離れした雰囲気があったからこそ、叶わなかった50年前の恋人探しもウソ臭くならずに、ロマンティックに展開されるのだ。
そして物語は、50年前の恋人を探すロードムービーへと変化していく。美しいイタリアの風景に心洗われ、登場する何人もの「ロレンツォ」が、端からレッドグレイヴ演じるクレアを口説くのが笑える(さすが、イタリア男・・・。それにしても同姓同名の男性が多すぎる)。その旅を通じて、若いソフィーは自己を見つめなおし、新しい人生を送る決意をするのだ。ソフィーとクレアの孫息子の恋の行方も気になるが(ラストシーンで『ロミ・ジュリ』ばりのバルコニー・シーンを演じてしまうのが微笑ましい)、幼い頃母親と離別したソフィーが、クレアと母娘のような友情を育む姿が温かい。
ついにクレアはロレンツォとめぐり合う(演じるのは、レッドグレイヴの実際のパートナーであるフランコ・ネロ)。熟年の2人が手を繋いで歩く姿に胸が熱くなる。年を重ねてもこんな恋愛ができるのなら、今すぐジュリエットに手紙を書きたくなる(笑)。「それが真実の愛なら、50年経っても真実の愛」・・・。明るい陽光ふりそそぐイタリア東北部の美しい風景と、レッドグレイヴの瞳に癒される珠玉のラブ・ストリーリーだ。