日輪の遺産のレビュー・感想・評価
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御国のために尽くした少女たち
主演は堺雅人だけれども、真の主演は少女たちだったかもしれません。頭に巻いた「七生報国」のはちまき。
七度生まれ変わって国に忠誠を尽くす。三島由紀夫が自決したときも、このはちまきを巻いていたはず。
終戦間近の昭和20年8月10日、真柴少佐(堺雅人)が阿南陸軍大臣(柴俊夫)に呼び出され、ある重大な極秘任務を受ける。マッカーサーから奪取した財宝(900億円相当で現在の貨幣価値で200兆円らしい!)を秘密裏に移送して隠匿せよというものだった。
本当にマッカーサーがこんなに多額の遺産を所持していたのか?!と思ったら、これは実話ではなく小説が原作でした。発想が面白いなと思いました。
特命を受けたのは、真柴少佐、小泉中尉(福士誠治)、望月曹長(中村獅童)の3人ですが、お国のためといって、兵隊さんたちを信じて、爆弾だと教えられた箱をひたすら運び任務を実行する少女たちの健気な姿に胸を打たれ、最終的には悲劇の結末を迎え何とも言えない気分になりました。
それにしても、これは小説なのだから、原作を読めばまた理解も深まるのかもしれませんが、細かい点に多少、疑問が残りました。主演の堺雅人のその後も描かれてなかったし。
任務実行の後、少女たちを毒殺処分(青酸カリ)するよう軍の上部から非情な指示が下されていたわけですが、真柴少佐が必死の思いで阿南陸軍大臣のところまで駆けつけ、「民間人を犠牲にできない」と言うと、自決している阿南が「そのような命は下しておらん」と言い、少女たちの命は救われたのか・・・と胸を撫で下ろしていたら、結局、少女の一人が青酸カリのことを知り、全員を自決に導いたということなのか?? このあたりの展開がよくわかりませんでした。
意外に良かったのが、ユースケ・サンタマリア。ドラマなどで3の線の強いおちゃらけな感じのイメージがあったのですが、ここでは少女たちをしっかり指導する担当教員をうまく演じておりました。
最後の先生と少女たちの幻影が現れるシーンは悪くはなかったけど、ちょっと長かったような。幻は八千草薫だけが見えているのかと思ったら、孫の麻生久美子にも見えていたのは、ちょっと引いてしまいました。
いろいろと書いてしまいましたが、悪い作品でありませんでした。フィクションといえども、戦争に翻弄された無数の人々がいたことに心が痛みました。
何も知らないで観ていたら、途中まで事実の物語だと勘違いしてしまった。あってもおかしくない話。
真柴近衛師団少佐(堺)は、小泉中尉(福士)、望月軍曹(中村)とともに財宝を隠匿せよという密命を受ける。実労は工場で働いていた12、3歳の女学校の生徒。思想犯として憲兵隊に睨まれていた彼女たちの教師・野口(ユースケサンタマリア)も一緒だ。2.26の亡霊という出で立ちの謎の軍服男からの命令書によって逐一実行されるが、最後にはどうなるのかわからない。3人の軍人たちは、それが日本を救うものだと信じて行動する。なにしろ現在の価値にして200兆円規模の財宝なのだ・・・
終戦前夜、謎の男から最後の命令が下される。運び込みの任務を完遂し、玉音放送を聞いた後で少女達と教師に毒薬を飲ませるというものだった。慌てて阿南大臣(柴俊夫)宅に向う真柴。そこでは自害しつつあった大臣の姿があり、「民間人を殺したくない」とはっきり聞いた真柴。玉音放送を聞いて、少女たちに秘密を保持させるよう説得する・・・が、事態を恐ろしいほど的確に把握していた海軍大佐を父に持つ少女が小泉のカバンから青酸カリを盗み出していたのだ。少女たちは級長の久枝(森迫永依)以外、19名が自殺。かけつけた小泉は苦しんでいる少女たちに銃を撃つ。そして小泉は久枝にも銃口を向けるが望月はそれを阻止。野口は「引率しなければならないから」と言い残して、財宝のある防空壕へ入り拳銃で自殺。
七生報国と書かれた鉢巻も痛々しい軍国主義時代の少女たち。多分反戦思想を持つ教師でさえも死を選ぶ世の中だ。理由も知らされず、任務遂行、秘密保持など、過酷な人生を過ごさねばならなかった時代。何も劇中の少女たちに限ったことではない!とも訴えかけられているような気がしてくる。
冒頭から、マッカーサーの通訳をしていた男(ミッキー・カーティス)や、現在の久枝(八千草薫)の夫である金原庄造(八名信夫)の突然死によって、その家族の姿がメインとなっていたが、麻生久美子と塩谷俊が余計な登場人物に思えてしょうがない。秘密を守るという苦難を強いられたため、望月は久枝の夫となることも重要なところだ。「もう命令は守らなくていい」と庄造が聞こえたことも、テーマとしてはいいのだが、真柴の最期も見せてくれないと家族との繋がりがわからない。もうちょっと脚本を・・・
美化
誰が主人公なのか、誰にも感情移入出来ませんでした。
こんなに上下関係の甘い軍人達が居たのでしょうか?格下が先にサンドウィッチ食べますか?マッカーサーの部屋で銃声が轟いたら外の米兵達が駆けつけるでしょう?それでもって霊感強い家系なんですか?
回顧録も当事者と日系米兵の視点から描かれて、これでもかと賞賛を送ります。泣いてくれと言わんばかりに。
実話でなくて良かったけれど、実際はもっと過酷だったのでは?
一誠以貫之
映画「日輪の遺産」(佐々部清監督)から。
作品の中に出てくる「掛け軸」や「色紙」に書かれた
「禅語」などに異様に興味がいってしまう私だが、
今回は、選択に迷った。
本来なら「幽窓無暦日」(ゆうそうにれきじつなし)。
「監獄の中に月日は流れない、使命という監獄に耐えよ」
物語を忠実に表現した言葉であると思うが、
そのほかにメモしたのは、少女たちがしていた鉢巻、
「七生報國」の文字。
「七回生まれ変わっても、国のために尽くす」の意。
しかし私が迷った挙句、最後に選んだのは、
陸軍省の会議室に飾ってあった書。
「一誠以貫之」
(阿南陸軍大臣が座っていた後ろの壁だと思ったが・・)
戦争をし続けた人たちの中枢部に飾ってある書は、
どんな意味だろうと、辞書やネットで調べたが、
ピッタリくる言葉が見つからず、読み方すらわからない。
想像すれば「第一に誠をもってこれを貫く」か
「一誠をもって貫く」などしか思い浮かばない。
意味は「1つのことに忠誠心をもって貫く」なのかな?
大事な意味を持つと思ったのに・・ちょっと残念。
この書を選んだ監督さん、読み方と意味を教えて。(汗)
少女たちの醜く、悲しい歌
「出てこい ニミッツ マッカーサー 出てくりゃ地獄へ逆落とし」
このフレーズが劇中に何度も出てきますが、こんな歌を誇らしく歌う少女たちの姿があまりにも純真で、胸が詰まりました。
そして、マッカーサーの財宝隠しというミッションを外にバレないようにするため、少女たちに服毒自殺をさせるという命令が下った所から、僕の中でブワーッとなり始めました。
彼女らに本当のことは何も教えられず、ただただ愛国的に、勤労奉仕に精を尽くしていただけなのに…。
この残酷な命令に葛藤する真柴少佐と小泉中尉のやり取りの近くで、スーちゃんは眠っていたと言っていましたが、きっと聞いていたんでしょう。
ここで全ての真実を知り、8.15、偶然ひとりだけ離れていた久枝以外の少女たちで、未来のために宝物を守ろうと“鬼になる”と決められたのですね…。
最後に、スーちゃんの呼びかけで幕を閉じますが、あれは反則でしょう!!本気で泣いてしまったじゃないか!!映画が終わってからしばらく放心状態で、心のバランスを戻すまで時間が掛かりました。
この映画は戦争モノですが、銃撃や爆撃といったシーンはありません。あるミッションをめぐる重厚な人間ドラマといった感じでしょうか。
今の日本は、戦時下とは別の意味で、しかし同じように酷く苦しい状況にあると思います。情熱・信念・誇り…、今の日本が失いかけているものを、この映画は教えてくれます。
復興という使命。
鑑賞後、すぐに原作を読みたくなった。(未だ読んでいないけど^^;)
浅田次郎が初めて自由に書いていいと言われ、喜び勇み書いた一編。
本人曰く、若かりし文体の粗さに直したい個所は数々あるんだそうだ。
それでもこれだけの重みあるストーリーに仕上げた手腕はすごい。
私など当初(考えれば当たり前だけど)エ?フィクションなの?と思った。
財宝隠匿、の事実はなかったにせよ、国家挙げての強硬使命の果て、
散らさなくてもいい命を散らした若者が、当時どれだけいたんだろうか。
戦後生まれの私が観ても、ただただ、悲しい。が、
当時を経験した人がよく口にするのは「私だけ生き残ってごめんなさい」
なぜ生きてちゃいけなかったの?んなわけないでしょ、大切な命なのに。
その絶対使命と間違った価値観(植えつけられた)が何よりも凄惨なのだ。
当時は皆、負ければ自決、すぐに自刃切腹や服毒でカタをつける。
それが日本人らしい、御上に対するいちばんの忠誠と看做されるからだ。
なぜこんなことしなくちゃならない?と疑う人間だってかなりいたはず、
筋を通すというのは自分を楽にすることではないのだ、泥沼で生き抜いて
(あ、なんかタイムリー^^;)遡上し、やがて元の位置に再興を遂げること、と
なぜもっと進歩的な考えを持つ人間が国家軍部にいなかったかと悔まれる。
負けを認めるのが怖い人間は、現世界にも大勢いるけれど^^;
いちど負けを認め、這い上がった人間の底力を日本人なら知っているはず。
今なら分かるその決断が、当時は違う決断へと皆を向かわせた…。
まぁこの物語は、結末がどうなったのかは大体想像できると思う。
そこから遡れば、隠匿の使命を帯びた少佐と中尉が(内容を知りながら)
その先の運命に危惧を抱かなかったこと自体がおかしい、日本の行方を
知らされていない女学校の生徒と引率の教師は、それらは爆弾だと、
米国軍をやっつける偉大な兵器であると信じ込み、ひたすら運び続ける。
マッカーサーを蹴散らす軍歌(これをおおらかに歌うからよけい悲しい)を
歌いながらもヘッセなどの詩集を読み耽るくらいのごく普通の平和主義を
唱える学校生徒たちなのだ。米国に勝って戦争が終わったら、をおそらくは
夢見ていたはずに違いない。ところが。。そこへ降ってくる日本降伏のビラ。。
最前線の戦場が描かれるわけではない。
少し前に観た韓国映画での学徒軍による反撃、もかなり悲しいものだったが、
今回の話はすでに終戦間近、しかも日本が圧倒的に不利に陥ってからの話。
物語の軸は、戦後の復興財源に及んでいるのだ(何だかこの部分もタイムリー)
その道筋を選んだはずなのに、なぜこんな結果になってしまうのだろう。
皆が前を向いて祖国復興に使命を捧げる、それが最重要課題だったはずだ。
さて、涙を誘うのはおそらく少女たちとその教師の姿になるのだが、
無垢で純真であることがいちばんの宝だからこそ悲しくなるのではないか。
日輪の遺産とは彼女らの気高い志によって守られた平和への意識の顕れだ。
(大切な命を二度と奪わせないためには生きる使命を与えた方がいいかもね)
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