劇場公開日 2010年7月31日

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フェアウェル さらば、哀しみのスパイ : 映画評論・批評

2010年7月20日更新

2010年7月31日よりシネマライズにてロードショー

傑作をものする監督は、やはり演技の真髄を心得ている

エミール・クストリッツァと聞いただけで「アンダーグラウンド」や「黒猫・白猫」でお馴染みのブンチャカした賑やかなサウンドが頭の中で鳴り響く。そのサウンドと大きな体、ぎょろりとした目、深い皺から、どうしても荒削りなイメージを持ってしまうクストリッツァが、この映画では、外見を裏切る繊細な感情を表現しているので驚かされた。傑作をものする監督は、やはり演技の真髄を心得ているということか。とにかくクストリッツァを主演に起用したことが、この映画の味わいを深くし、成功の大きな要素になったのは間違いない。

彼が演じたKGB大佐は、金や保身のためでなく、祖国を愛するが余りスパイになった男だ。KGBの中枢にいるからこそ見えてしまうソ連の末期的症状。国を捨て、身の置き場所を変えれば自分と家族だけは救われる。それを潔しとせず、次世代のために変革を望んで敢えて裏切り者の道を選ぶとはなんというロマンチストだ。妥協より孤高の死を選ぶ一匹狼のロマンがクストリッツァのワイルドな風貌の下から現れる時、この男の孤独とやるせなさが画面に立ちこめて胸を衝かれた。

情報受け渡しのサスペンスや、それを巡る米仏の駆け引き、CIAの冷酷さなど、スパイ映画らしい緊迫感も一級品だが、なんといっても、熱きロマンを抱えた大佐のキャラクターがこの映画の最大の魅力だ。

(森山京子)

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