「.」黒く濁る村 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にて鑑賞。韓国産で原題"이끼"。相変わらずのよく判らない邦題だが、Y.テホのweb配信された同題コミックが原作。161分と長めの尺だが、決して駆け足や中だるみ等を感じさせないゆったりとした作り。その一例として、タイトルコール迄16分も掛るが、この間にH.ジュノ演じる“ユ・モッキョン”のカリスマ性やそもそもとなる30年前をしっかりと描いている。意地汚い者の純粋さ、敬虔な者の醜さ、純真な者の強かさ等、人間臭い深い心情が前面に押し出された物語だが、混乱せず共感出来る範囲内で巧く纏めている。65/100点。
・ストーリー自体は概ね想定内と云えるが、ラストの表情のアップで或る仕掛けに気付かされ、鑑賞者自身の置かれた立ち位置で、後味が変化するかもしれない。作り手はストーリーテリングや感情の誘導の手腕に長けていると感じた。ただ驚く程の意外性が無い分、やや小粒な印象が残ってしまう。
・よく考えれば、本作の骨組みはステロタイプな先入観に支えられており、あくまでその上で成立している事に気付かされる。その意味で、どの程度絵空事と思えるか、どこ迄がリアルに感じ取れるかにより、評価が分かれるのではないだろうか。
・後半、P.ヘイルの“ユ・ヘグク”の母親がツイストに絡んでくるのかと思ったが、母親については一切触れられなかった。そして何故、20年も父親と疎遠だったのかも説明が無く、謎である。
・演者達──特に男性キャストは鬘とメイクを駆使して、青年期から老いに差し掛かる現在迄を自身が演じている。
・“キム・ドクチョン”がそれ迄の心の内を吐露する独白のシーン──演じるY.ヘジンの長科白で延々と感情をぶつける熱演が凄く佳かった。鍵となる謎多き“イ・ヨンジ”のユソンも少女期から現在迄の演じ分けは流石。そして何と云っても“チョン・ヨンドク”のJ.ジェヨン、彼の存在感溢れる演技が無ければ本作は霞んでしまい、成り立たなかったであろう。
・鑑賞日:2017年9月10日(日)