劇場公開日 2011年5月7日

岳 ガク : インタビュー

2011年5月1日更新
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クランクインの5カ月ほど前には、物語の舞台となる山を実際に体験するため初の登山に挑む。しかも、日本第3位の標高3190メートルを誇る奥穂高岳。野球の経験があり、体力には自信があったそうだが、これがかなり過酷な行程となった。

「本当につらかったんですよ(苦笑)。行く前々日くらいに登山靴を買ったんですが、まずこれが歩きづらい。そして、中腹くらいの小屋で1泊してから頂上へ向かう。クサリ場やはしごといった危険なところも登るので、その恐怖とつらさと自分の体力のなさで本当にまいった。でも頂上に登ったとき、周りを遮るものが何もなく、しかも待っていたかのように青空になったんです。気持ち良くて、できればずっとここにいたいくらいの気持ちになり、小栗をぜひここに連れてきたいと思ったんです」

「そこに山があるから」。なぜ、エベレストを目指すのか? と問われた英国の登山家マロリーの言葉ではないが、自らの足で頂上を踏みしめ、そのときに太陽が差したことで、映画「岳 ガク」に光明が見えたのかもしれない。同時に、撮影は体力勝負になるとの覚悟もできた。

「ロケハンが終わって、撮影に入るまではほぼ毎晩、走っていました。このままだとやばいな、僕が足を引っ張っちゃうと思ったので。それから八ヶ岳や立山、白馬と、けっこう登りましたね」

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重い機材を担いで片道2時間の道を登って撮影……という話を聞くと、「劔岳 点の記」で香川照之が「あれは撮影ではなくて修行」と話していたことを思い出す。実際、吹雪で凍えながら待っても1カットも撮れなかったこともあり、山の気まぐれな天候に左右されることも多かったそうだが、不思議と焦りは感じなかったという。

「山はしようがないと思っていたので、不思議と焦りはなかったんですよ。ガイドの方にも、ちょっとでも危ないと思ったらやめる、命にかかわることだから下りるときは下りる判断をしないと、とさんざん言われていたので、僕が焦っちゃうとまずいと思っていた。スタッフ、役者含めてケガがなかったことが一番良かった」

そんなリアリティを追求したロケを乗り越え、達成感があったのではと思ったが、その後もスタジオでのセット撮影、編集やCG作業と続いたため、なかなか撮り終わった気持ちにはなれなかったという。加えて、数々のヒットドラマを手がけているが、映画は2007年「ヒートアイランド」に続く2作目ということもあり、編集には相当悩んだようだ。

「スクリーンが大きいので、カットをテレビのように細かく変えなくてもいいということがやっているうちに分かってきて、そこから悩みました。自然の壮大な景色、その中で何かをやっているというのを見せるにはどうしたらいいか考え、編集で自分のカット割りを変えてワンカットで長くしたり、その後の構成を変えたりもしました」

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こうして完成した「岳 ガク」は、ロケ撮影の効果がシネマスコープのスクリーンに映え、雄大な自然、優しくも厳しい山と対じする人々の営みがドラマティックに描かれている。片山監督にとって、全国300スクリーン以上の一斉公開は初めてなだけに、公開が迫り気分も高まっているのでは?

「正直、分からないですね。全国300スクリーン以上の一斉公開というのがピンときていないので、周りでそういう機運が高まってくると、自分が後から追いかけていく感じになるんじゃないかなあ。楽しみと不安……両方ですね」

とはいいながらも、続編については「ぜひ、やりたいんですよ」と意欲を見せる。“パート1”は秋の撮影ができず、四季を通せなかったという心残り!? がある。小栗ともクランクインのころから、「『釣りバカ日誌』みたいになればいいね」と話していたそうだ。ならば、ぜひとも大ヒットを期待し、そして「続編決定」の朗報を待つことにしよう。

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