岳 ガク : インタビュー
登山の経験や知識もなかったため、筋力トレーニングから始め、多忙な合間を縫ってのクライミング訓練や八ヶ岳への登頂などで技術的なことも習得。あとは、奥穂高など日本有数の名峰でのロケに身をゆだねる心積もりで撮影に望んだ。その選択は「9割がそうだと言ってもいい」というほどの効果をもたらした。
「デスクワークみたいなことはあまりせずに、とにかくセリフだけは頭に入れて山に入りました。それから撮影のない日や早く終わった日は、1人で散歩に行って、すごく星がきれいだったからずっと雪の上に寝転がったりとか、そういうことをしているとどんどん山を知りたくなる。白銀の世界って空気が澄んでいるので、あらためて自分の健康を知るというか、生きているんだなって。三歩は毎日、そんなことを純粋に感じながら生活している人なんだろうなと思って。この映画じゃなかったらこんなセリフの言い方はしない、こんな顔じゃなかっただろうと、完成した作品を見たときに自然に思えたので、山につくってもらった感じですね」
山、自然と対じすることで成立した三歩は、あらためて魅力的だと再認識し、小栗にとってかけがえのないキャラクターになった。
「ある日突然に会ったら、変人だと思うんですよ(笑)。街に下りてくると、日常の社会には適応していない人なので。でも、山の中で過ごしていると素晴らしい人間で、器がでかくて動じなくて助けてもくれる。片山さんが、スーパーヒーローにはしたくないという話をしていたので、映画版ならではの人間らしさ、三歩がくじけそうになるという部分も出しています。自分で見ても良かったなあと思えるところがあったので、三歩はすごく好きなキャラクターになりました」
高所恐怖症を乗り越えられたのも良かったのでは? と向けると「克服はできていないんですけれどね」と照れ笑いを浮かべる。
「山の上でも、ロープがないとちょっと怖いと思いますよ。今回はロープに対する信用が自分の中にできていたので、ロープをつけていれば今もビルの上から懸垂下降してくださいと言われても、できる気がします」
振り返れば「岳」は、初監督作「シュアリー・サムデイ」完成後の初出演作となる。監督の経験が俳優業にもたらした影響については、今も模索中のようだ。
「確実に変わったと思うんですけれど、具体的にこれだっていうのはまだ自分の中で探しています。ただ、以前のように(演じながら)自分だったらこうするのにとか、このカットはこうやって撮るだろうなというのは考えなくなりました。それは監督に任せるべきことだと。俳優としていくときには、俳優としてだけ考えればいいという気持ちが強くなりました」
少なくとも、俳優としての集中力がより増したことを感じさせる頼もしい発言。片山監督が熱望するシリーズ化は、ヒットが前提としながらも「そういう話になったら、もう少しトレーニングを積みたい」と意欲十分だ。
昨年撮影した映画は「岳」だけだったが、今年は「(脚本が)すっごい面白かったので、なんとかやりたかった」という役所広司と共演の「キツツキと雨(仮)」など2本の撮影を終え、現在はこちらも人気コミックが原作の「宇宙兄弟」の撮影に臨んでいる。映画俳優・小栗旬として“豊作”の年になりそうで、笑顔だけではない、また新たな表情を見せてくれることを期待したい。
>>次のページへ続く