劇場公開日 2010年9月11日

  • 予告編を見る

「泥まみれに血まみれになってモンスターと戦うラストが圧巻。ミカエルの正義感にも心打たれました。」ミレニアム2 火と戯れる女 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5泥まみれに血まみれになってモンスターと戦うラストが圧巻。ミカエルの正義感にも心打たれました。

2010年9月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 スウェーデンのベストセラー小説「ミレニアム」3部作から生まれた本シリーズで魅了されるキャラクターが、天才ハッカーのリスベットです。厚底靴に革ジャン。少年のようなか細い体に彫ったタトゥーと鼻ピアスといった独特の風貌。そして男勝りの格闘をみせ、時に別人に成りすます変装と、どこにでも忍び込んで情報収集する行動力には、一流スパイも顔負けの活躍を見せるのです。

 外見だけでなく、性格も複雑。悲しみをたたえ、怒りをたぎらせ、暴力や脅迫に屈することなく自前の正義を貫き、傷をさらしてまでも復讐の鉄槌を下すリスペット。誰にもこびず、信じることもなく、常に独りで立ち向かっていく気性は、ネコと言うよりも牝豹といっていいでしょう。
 しかし、時に純情をにじませるタフでまっすぐな女なんです。えぐい物語のなかに、時に濃厚な描写と相まって、鮮烈な個性をほとばしらせるところが魅力なんですね。しかも割とツンデレなところもあって、そこがいいのです。
 ハリウッドでもリメイクが決まっていますが、ぜひリスベットは、今のノオミ・ラパスに担当して欲しいですね。

 このリスベットが、続編でも再び登場します。第1弾「ドラゴン・タトゥーの女」では社会派雑誌「ミレニアム」の発行人ミカエルとともに、40年前の少女失跡事件を解決しました。「2」 「3」はその1年後の物語。「1」で謎のまま残されたリスベットの過去が明らかになっていきます。

  「1」では本格的な推理劇が中心でした。しかしサデステックで残虐な場面や露骨な性描写に度肝を抜かれました。「2」でも、過激なシーンはあるものの控えめに。黒幕のパシリとなっている金髪の大男と死闘を演じるアクション編といった趣きです。そしてさらに
「3」では、リスベットが少女時代に苦しめた卑しい男たちを断罪する法廷編となっていきます。
 シリーズを通して、リスベットという特異なキャラが、どぎついストーリーと拮抗し映画のパワーと緊張感を増幅させているのが特徴です。

 「ミレニアム」で少女売春の記事を担当していた記者が殺され、現場からリスベットの指紋がみつかります。テレビを見ているリスベットが、いつの間にか自分が指名手配にされていたことを知るときの驚きようは、ちょっと彼女らしくなく、ユーモラスでした。

 リスベットの無実を信じるミカエルは、妹の弁護士やハッカー仲間の協力で冤罪を晴らしていきます。前作同様、警戒心の強いリスベットの単独行動は徹底していて、自分のために調査しているミカエルの活動を知りつつも、姿を現したり、情報を提供しようとしません。情報力では、リスベットが常にミカエルの先々を押さえているのに、なんで自分の協力者たちに教えないのだろうと見ている方は、いつも疑問に思うのです。まぁ、それがリスベットの流儀なんですね。

 リスベットとミカエルが、殺人事件の真相に迫っていくなかで、浮上していくのがロシアマフィアによる少女売春の組織。顧客だった元公安警察のひとりから、その売春組織の黒幕として“ザラ”という旧ソ連の二重スパイの名前が浮かんできます。

 その黒幕は、リスベットに関わる資料の回収と彼女の存在も消し去る指令を出していました。なぜリスベットは命を狙われなければいけなかったのか?そこに、「2」で描かれるリスベットの出生の秘密が絡んでいたのです。そして、少女のころなぜ彼女は精神科病院に収容され、後見人をつけられたのか? 全てはその黒幕の“ザラ”に繋がっていきます。
 冒頭の殺人事件の真相は、リスベットのおぞましい過去、父なる男へとつながり、女性蔑視と性的虐待、その背景にある平和国家スウェーデンの暗部が浮かび上がっていきます。そして自分と同じような性的虐待を同性の少女たちに受けさせているロシアの売春組織との対決へとリスベット駆り立てるのでした。
 本作は、エンターテイメント作品でありながら、女性への性的虐待を告発する骨太な社会批判を忍ばせた作品でもあるのです。

 ところで、本作のストーリーの巧みさは、いろんなエピソードが意味なく林立しつつ、次第にぴたりぴたりと真相に繋がる伏線へと変わっていくことです。だから途中では、エピソードの変化について行けなくなることも。『2』では立ち上がりがずっとリスベットが旅しているシーンなので、少々退屈するかも知れません。でも後半は俄然面白くなっていきます。
 一番印象だったのは、リスベットが後見人にレイプされるところを撮影したDVDをミカエルが見たとき。みるみる表情が変わっていき、全身で怒りを迸らせるミカエルに、限りない優しさを感じました。この強い正義感は、全編を貫く作品のテーマを代弁しているものだと思います。

 加えてアクションシーンは見物。リスベットが対決する“ザラ”のパシリに使われた金髪の大男は、神経がマヒして痛みを全く感じない格闘家でした。そのためリスベットが通っているボクシングジム所属の世界チャンピオンが戦っても倒すことができませんでした。
 この大男とリスベットの関係もネタを明かせば、驚くへべき関係だした。
 そんなモンスターと対決するラストのシーンは圧巻です。泥まみれに血まみれになった、リスベットは絶体絶命のピンチに。『1』では救われたミカエルが、リスベットの救出に向かっているけど、間に合うのか?
 さらに、アッと驚く黒幕“ザラ”の正体とは!!!
 ・・・『3』のレビューに、続きます。乞うご期待!

流山の小地蔵