アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたちのレビュー・感想・評価
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バンドネオンの魅力とタンゴの真髄に迫る秀作ドキュメンタリー
アルゼンチンタンゴに関する映画は、これまではタンゴ・ダンスにスポットをあてたものが多かった。今回、公開されたこの作品は、おそらくはじめて、タンゴ音楽にのみをとりあげた映画だと思う。見事なタンゴの名曲の数々が、どのように演奏されてきたのか、ベテラン・タンゴ奏者たちの証言と演奏が綴られたこの作品は、タンゴの魅力がほとばしる音楽ドキュメンタリーの秀作に仕上がっている。
この作品では、今までわからなかったタンゴの魅力の原点をいくつも知ることができたのだが、観客にとっての一番の収穫は、今は数が少なくなったタンゴのための楽器バンドネオンの音色の秘密だ。
バンドネオンとはアコーディオンの一種、と思いがちだが、バンドネオンはアコーディオンよりも音色に抑揚がつく特徴がある。だから、音色に演奏者の心、編曲者の思いが強く出やすいのだ。つまり、バンドネオンの音色は、喜びや悲しみ、怒りなどの感情が込められると、思いもよらない変化が生まれるのだ。だから、古い名曲であっても演奏者やアレンジャーの気持ちが反映されて、聞き手は瑞々しい新鮮さを感じる。バンドネオンは、タンゴのような情緒あふれる曲の演奏にこそ向いているのだ。
そして、この作品の演奏者が次のような言葉を吐露する。
「無音を制する者がタンゴを制する」
バンドネオンの抑揚ある音は、感情に訴えてくるような余韻を奏でることがある。しかし、あえて音を消し去り、次の音を奏でることがある。それによって、タンゴ独特のリズムが生まれる。この作品に登場するタンゴの名演奏家たちからは、これ以外にも次々と、タンゴ音楽の素晴らしさが語られる。この作品で演奏された曲はすでにCDで販賣済みなので、曲を聴きたいだけならCDを買えばいいだけと思っていたのだが、よりタンゴやバンドネオンの魅力を深く知る上では、この作品は相当貴重となった。
アルゼンチンタンゴの真髄が描かれているこの作品は、今年のドキュメンタリー映画の中でも記憶に残るものになるのは間違いないと思う。
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