あの夏の子供たちのレビュー・感想・評価
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光を、灯す
フランス人監督ミア・ハンセン=ラブが、主演に名優キアラ・カゼッリを迎えて描き出す、非常に感情描写に優れた人間ドラマ。
この作品は、ある一人の男が失った小さな光を、彼の事を誰よりも愛し、見つめてきた家族がもう一度、灯し直すまでの短い物語である。この作品を味わう中で、観客は二本の緊張の糸に引っ張られることになる。
一本は、男が自らの人生という舞台を降りるまでの世界。そしてもう一本は、男が全てを懸けて愛そうとした映画という世界を通して、家族が男を知るまでの過程である。
何気ない会話と、家族の笑顔に囲まれて、男は人生を謳歌しているように見える。しかし、物語が進み、男が精神的に、肉体的に追い詰められていくと、男は光を避けるように歩き始める。
木の影を、アパルトマンの暗闇を、路地裏の夕暮れを。その残酷なまでの陰の描写を積み重ね、まるで食事をするように、電気を消すように、日常の風景の如く男は拳銃を頭に突きつける。
ここまでで物語は中盤。開始10分で事件を起こせとのたまう著名な脚本家の教えには背いているが、ここまで粘着に男の影を積み重ねることによる観客への緊張状態の強制は、その後の安堵へと的確に私達を導くことに成功している。
そしてもう一本の、糸。こちらに、作り手の巧妙な仕掛けが活きて来る。男が命を絶った後、遺された家族は男の遺した映画を作りきること、あるいは男の製作した映画と、彼の認めた才能に向き合うことで男を知ろうとする。
ここで、男を見つめる視点が分離を始める。妻はあくまでも肯定的に男を理解し、製作に奮闘する。対して子供たちは、男を遠目から、あるいは否定的に見つめていく。この二つの感情から男を捉えていくことで、追い詰められた男の姿、想い、苦しみを重層的に描いていく。絶望から生まれる自殺を描く物語が多い中、この冷静な観察の視点は興味深い。徹底的に人間を見つめるスキルと感性の高さが伺える。
男を知り、男を認めた家族の前に唐突に訪れた暗闇。影を前にして家族はろうそくをもって照らし出す。夢のような一瞬、その恍惚と、歓喜。誰が悪いのか、そんな陳腐な議論を超えて、日常にある「死」を清潔に捉えていく覚悟と大らかさ。きっと、家族は男を忘れず、強く生きていくと信じられる力強い表現である。
影がなければ、光は存在しない。男の人生という名の舞台をもって、観客は自分を知ることが出来る。光は、きっと灯る。誰かのために、大切な誰かのために。極めて、端正な作品である。
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