「今にも『HACHI』が出てきそうな雰囲気。抑制の効いたほのかに品のある純愛映画でした。」親愛なるきみへ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
今にも『HACHI』が出てきそうな雰囲気。抑制の効いたほのかに品のある純愛映画でした。
『HACHI』と同じ監督だけに、緩いテンポにより登場人物の視点で切り取るカメラワークがとても心地よかったです。今にも『HACHI』が出てきそうな雰囲気です。ニコラス・スパークの原作小説と、繊細な演出がよくマッチしていました。『ジュリエットからの手紙』を見たばかりなので、アマンダには手紙のイメージがつきまといます。それでも訳ありの恋の物語には、彼女のくるりとした瞳がぴったりですね。
彼が9・11の事件で軍の服務期間が伸びたことからすれ違いだす、微妙な心の揺れ。それは、余りに意外な展開でしたが、わざとらしくなく、またセンチメンタルに浸ることなく、リアルに描かれていて、これまでの恋愛作品とは、ひと味違う印象を持ちました。
ヒロインが彼に送った別れの手紙の真意は、果たしてホントはどんな思いが込められていたのでしょうか。想像するだけで、胸がキュンとなりますぅ~。
故郷の浜辺で、出会ってすぐいきなり恋に落ちてしまう展開。美女とイケメンだけに違和感は感じません。むしろこの早さに、運命の出会いだったのねとロマンを感じてしまうことでしょう。 世界的な恋愛小説の原作を映画化しているため、こんな出だしの紹介をしてしまうとそれだけで、腰を退いてしまう人もいるかもしれません。しかし本作の真骨頂は、そんな甘ったるい恋のささやきにあるのではありませんでした。
ヒロインの女子大生サヴァナ大学に戻り、ジョンが機密保持のために明言できない外国に赴任した2週間後から物語の本筋が始まるです。
遠距離恋愛となっても、通話料が格段に安くなり、また電子メールという手軽に長文を送る手段が登場して、恋人たちの距離を縮めるのに役立っています。けれども本作の場合は、彼氏が特殊部隊の兵士というわけありにしたことで、メールも携帯も使えない状況を生み出しました。手紙でしか伝えられない思い。でも手紙という古風な手段は叙情を深めるものだなぁ~という実感は、本作のみならず『ジュリエットからの手紙』でも強く感じましたね。
1年で戻る約束だったジョンの任務は、9・11テロで一変します。ジョンは祖国への思いから任務を延長。2人の運命は大きな試練を迎えてしまいます。
突如、サヴァナからの手紙は途絶え、たまたま繋がった電話で語られるのは、結婚が決まったというサヴァナからの信じられない話でした。
余りに唐突な展開に、見ている方もなぜ?という疑問に包まれました。これは監督の作戦でしょう。その後ジョンが任務を解かれて、サヴァナと再会するなかで、どうして別な男性と結婚を選択した事情が明かされていきます。その伴侶となったのは、意外な男性。そして、その理由もサヴァナが心変わりしたわけではなかったのです。自閉症児の施設建設を夢見ていた理想主義のサヴァナらしい結論に、これもアリかなと納得させられました。この微妙にすれ違う二人の愛が、泣かせどころでしたね。
普通の恋愛映画なら、後半から必ずふたりは喧嘩して離れても、寄りを戻すのが定番です。しかし、本作はいきなりジョンの死亡シーンから始まってしまう衝撃的なスタート。最初から悲劇が予定されていました。それは、戦争のむごさを印象づけます。けれども本作は、それをさらりと描いて、あまり反戦を意識させません。政治的なメッセージに偏らないところがいいと思いました。あくまで二人の愛の物語だったのです。
もう一つの伏線は、ちょっとした誤解から、疎遠となっていたジョンと自閉症の父親との関係。ラスト近くに、病により臨終に近づいた父親とジョンが和解し合うシーンは感動的でした。
ハルストレム監督は、感情を抑制し、節度をもって滑らかに物語を語ります。無理に泣かようとせず、感傷に浸ることもありません。登場人物のピュアなキャラをそのまま活かしきった、ほのかに品のある純愛映画になったと思います。