ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会いのレビュー・感想・評価
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観て良し、聴いて良し
イタリア映画「ドンジョバンニ天才劇作家とモーツアルトの出会い」、原題「IO DON GIOVANNI」を観た。オペラ「ドン ジョバンニ」は モーツアルトによって作曲され、1787年に初演されたが、スペイン人で1003人の恋人を持っていたといわれるドン ジョバンニという伝説のプレイボーイをオペラ化したものだ。
オペラとは 200年も300年も前に作られたものだ。華やかなヨーロッパの最高芸術の傑作の数々をいま、わたしたちは繰り返し観ている。大昔にできたオペラを観る人が 今もなお感動して 心洗われる思いをするのは、そこに真実があり、芸術家の魂がこめられているからだ。
この映画をみると、ドン ジョバンニというオペラがモーツアルトによって どんな時代背景のもとに、どのような過程を経て製作されたのかがわかる。イタリア語が耳に優しく バックに流れる音楽が良い。聴いて心地よく、観ていて素晴らしい作品だ。
監督:カルロス サウラ (CARLOS SAURA)
キャスト:ロレンソ:ロレンソ バルドッシ
エミリイ:エミリア ヴェルジネリ
モーツアルト:リノ グニシエラ
カサノバ:トビアス モレッテイ
1763年 ヴェニス。
ロレンソ ダ ポンテは、詩人で作家、女たらしで、女泣かせだ。何と言っても カサノバの親友だから女たらしもプロ並みだ。また、イルミナルテイのメンバーでもある。子供の時から科学への強い探究心と、信念からカソリックの洗礼を拒否してきた。イルミナリテイが 教会から厳しく糾弾、弾圧されている時代だ。
ロレンソの素行が悪いとのことで、彼は遂にヴェニスから立ち退きを命令される。秘密結社イルミナリテイのメンバーのひとり、裕福な商人から、ロレンソは 一人娘のエミリアを紹介される。商人は自分が病気がちで、跡継ぎもいない。一人娘をロレンソに託して安心して死んでいきたいという。ロレンソは 娘に会って、一目で恋に陥る。しかし、ヴェニス立ち退きを前に、妻を持つ身分ではない と言い残して ロレンソは単身 ウィーンに向かう。
老作家で、名の知れた親友 カサノバの紹介で、ロレンソはウィーンで活躍する作曲家サリエリに会いに行く。サリエリに オペラの台本書きとして雇ってもらえることを期待して出かけていった教会で、ロレンソは若いモーツアルトに出会う。同じ年頃のロレンソとモーツアルトは すぐに 出会って親しくなった。
モーツアルトは このとき、死の数年前。若く才能をもてあましていた。作曲した作品は評価されず、妻コンスタンチンとともに、貧困にあえいでいた。その日の生活のために、教会でオルガンを弾き、貴族の娘達にピアノを教えなければ ならなかった。
サリエリは 宮廷からオペラを作るように命令をうけていたが、思うような作品が作れずに、名前だけを自分のものにして、モーツアルトにオペラを書かせようと画策していた。
ロレンソは、親しくなったモーツアルトに 新しいオペラの構想を次々を出してモーツアルトと共同でオペラを製作し始めた。モーツアルトは 眠る時間を作曲のために費やしながら 残る命のともし火を燃やすようにして作品を作っていく。
ロレンソには どうしてもドン ジョバンニを完成させて成功しなければならない理由ができた。ヴェニスで一目会って、恋におちたエミリアがロレンソを頼って ウィーンに出てきたのだ。
一方、オペラの数々のアリアを作曲している最中、モーツアルトには、父親の死という 悲報が届く。自分を音楽家として育ててくれた尊敬すべき父親を失い その死にインスパイヤされて、とうとうモーツアルトはオペラを完成させる。
1787年 プラハ国民劇場での初演、国王、皇族の前で、モーツアルト自身が指揮する。オペラが終わって、満場の観客は、静まり返って王の判断を待っている。否か是か。オペラは成功だった。
というお話。
映画の主役はロレンソとその恋人エミリアなのだけれど、彼らの出合い別れ、そして再会する筋書きに、平行して、登場する大物達がすごい。モーツアルトと妻コンスタンチン、サリエリ、王族、貴族たち、美しいオペラ歌手たち、そして、老いてなお魅力あるカサノバなどが、それぞれ主役でもある。
モーツアルトの無邪気で自由奔放な姿に心うたれる。
オペラのなかのひとつひとつの曲がうかびあがってくると、夢中で自ら歌いながら作曲をする。そうしているうちに熱にうかされた病人のように曲にのめりこむシーンなど、芸術家の熱が伝わってくるようだ。31歳のモーツアルト。4年後にリューマチで死ぬ。生活苦のなかで、邪気など全く無縁で、純真であり続けたモーツアルトの短い一生を思うと ただただ 痛ましい。
ジアコモ カサノバは、ヴェニス生まれの作家。
実在の人物でドン ジョバンニばりのプレイボーイだった。1976年、フェデリコ フェリーニが ドナルド サザーランドを主役に使って 映画「カサノバ」を作っている。このころのドナルドは本当に美しかった。
2005年 ヒースレジャーが 映画「カサノバ」を演じた。貴族から修道女から人妻にいたるまで放っておけない。カーリーヘアーのヒース レジャーがカサノバになると 女たらしも おちゃめで可愛い。当時のヴェニスの人々の暮らしぶりを彷彿をさせる楽しい映画だった。
そのカサノバが この映画では年老いても魅力的な老紳士の姿で、オーストリア人俳優、トビアス モレッテイが演じている。知的で深みのあるカサノバだ。
音楽が素晴らしく、聴いて良し、観て美しい映画だ。
稀代の色男の恋路とは?
物語の時代背景などの説明は無いのである程度の予習をしてから観た方がより楽しめると思いますが、必須では無いので、「ドン・ジョバンニ」の成り立ちに興味があればそれなりに楽しめます。
また、当時の衣装や舞台稽古の様子など興味深いものも多かったですし、本物のオペラ歌手を使っているだけのコトはあり、その歌声の迫力はナカナカのモノです。
作品中に流れてくる数々のクラシックの名曲や、モーツァルトの調べに身を任せるのも良いですね。
ダ・ボンテの放蕩生活ブリや、カサノヴァとの関係性。その人物像など描き込みが足りないと感じる部分があり、ダ・ボンテがそれ程の放蕩者と思えないのはどうなのかなぁ~と・・・
健気に見えれしまうのは何故でしょう(良く考えれば同情する余地は一切無いように思えます(笑))。
ダ・ボンテとアンネッタ、フェラレーゼの三角関係を描きつつ、
「ドン・ジョバンニ」の製作過程や稽古中の劇中劇とシンクロしている点が、複雑且つ幻想的な世界観を創りだすことに一役買っています。
其の時々のダ・ボンテの心情をシンボリックに描き出している点が印象的でした。
その他では絵画的な画作りの中に、登場人物が投影されると ―
画が動き出し、ストーリーが進んでいくといった演出手法も幻想的で芸術的な雰囲気を出すのに大きく貢献しているのかなと思いました。
当時のオペラの製作過程に興味のある貴方。
「ドン・ジョバンニ」やオペラお好きな貴方。
モーツァルトやダ・ボンテに興味のある貴方。
先駆者の苦悩を知りたい貴方。
男女の三角関係など、お昼のメロドラマがお好きな貴方。
お勧めです。
初恋の人、アンネッタへのダ・ボンテの想いの強さ。
その想いを成就される為には何としても、「ドン・ジョバンニ」を完成させ、過去の自分と決別し新しい自分への再生が必要。
さらには、アンネッタへの贖罪の意味も込めた、言わばダ・ボンテの告白なのでしょう。
「ドン・ジョバンニ」の稽古に参加し楽曲に触れることで、周囲の噂や、雑音に惑わされずダ・ボンテの想いを感じ取ったアンネッタは、遂にダ・ボンテの元に駆け寄るのです。
カサノヴァの望んだ結末とは違い、アンネッタを選び真実の愛を叫ぶ決意をしたダ・ボンテは「ドン・ジョバンニ」を完成させることで、古い価値観や宗教的な倫理観、道徳観からの開放、魂の自由を訴え、カサノヴァからの呪縛からの自由、独立をな成し得たのです。(父の呪縛から逃れられなかった、モーツァルトとの違いは此処なのかも知れませんね)
「ドン・ジョバンニ」は、余りに先進的過ぎたので、周囲には受け入れられませんでしたが、満足気なダ・ボンテとモーツァルト。
理解しあう、天才二人は、傑作と確信したのでしょう。
何時の時代も先駆者は理解されないモノですネ。
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