「ミュージカルとしてはいいものの、もっとアメリカンドリームを見せて欲しかったです。」バーレスク 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ミュージカルとしてはいいものの、もっとアメリカンドリームを見せて欲しかったです。
『ドリームガールズ』(2006)でビヨンセの歌唱力に驚嘆したものでしたが。本作でのクリスティーナ・アギレラときたら、パワフルな歌唱力はビヨンセ以上です。おまけに童顔ながらコケテッシュな美貌に溢れ、バーレスク・クラブでのセクシーダンスを、こともなげにこなして観客を魅了してしまいます。
アギレラの主要8曲によるワンマンショーといっても、過言ではない作品です。アギレラを知らない人でも本作を見るだけで、たちどころにファンになってしまうことでしょう。
けれども、映画としてはアギレラの歌唱に頼りすぎて、ストーリーラインはインパクトがありませんでした。アメリカンミュージカルの魅力の一つに、ビッグドリームを叶えるサクセスストーリーがあると思います。そのために主人公が味わうライバルの嫌がらせや挫折、そしてその果てに掴む栄光。そのスポットライトの落差が激しいほどに、感動が深まるもの。
それが本作では中途半端だと思うのです。主人公のアリが田舎からLAに出てきた、僅かなきっかけから、バーレスク・クラブの主役を張るところまではいいと思います。
ただそれが、驚異的な歌唱力を持っているアリにとって、本当のサクセスなのだろうかと思います。資金難で、潰れかけていたバーレスクを救うことがこの物語のサクセスであるとは、あまりに話が小さいのではないでしょうか。
アリが追い落とすことになる、主役を張っていたニッキとの「女の戦い」も、途中から火花が飛ばなくなり、あっさりニッキは降参してしまうのです。冒頭では、アリのダンスに圧倒されたアリが、ニッキを讃えて、「素晴らしい、まるで男みたい」と毒づき、一気に二人の闘争心に火が付くシーンもあったのにです。
さらには、ニッキの恋人であった大物エージェントマーカスから、引き抜きも兼ねて、口説かれてしまうという事態に至っては、もう少し二人の関係が険悪になっていく方が自然ではないでしょうか。
ニッキの嫉妬ぶり、またバーレスクを買収しようとするマーカスのあくどさなど、ストーリーを盛り上げる「悪役」のインパクトが足りない分、ストーリーの盛り上がりに欠けました。
また、当初住むところがなく、アリが押しかけてルームシェアリングする、バーテンダーのジャックとのラブもイマイチな展開。婚約者のいたジャックとは同棲ではなく、単なるルームメイトという奇妙な関係という設定は、面白いシーンが盛り込まれています。特にふたりがやっと、男と女の関係になっていくところは、なかなかユーモラスで笑えました。けれども、そのあと婚約者が押しかけてきて、ジャックの二股がバレた後の展開は、ちょっと都合の良すぎるものとなってしまいました。ドラマもラストに近づいていたので、丁寧に描くだけの余裕がなかったのかも知れません。
ということで、前半のワクワクした展開が、後半ではやや失速していくものの、それが気にならないくらいに、ステージパーフォーマンスは素晴らしいと思います。これだけを比べれば、『CHICAGO』を越えているいることでしょう。
セクシーダンスをウリにしている、バークレイ・クラブだけに、淫靡なお色気もたっぷり。『NINE』の露骨なセクシー表現とはひと味違う大人のためのステージパフォーマンスを堪能できました。
アギレラだけでなく、クラブのオーナーであり、伝説のスター、テスを演じたシェールも負けていません。店の経営に行き詰まったとき、再起を誓うテスがうたうバラードには、魂を揺さぶられるほどの力強さを感じましたね。
楽曲的には、すごいミュージカルでした。