「背筋が凍るぐらいに愛おしい」さんかく かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
背筋が凍るぐらいに愛おしい
拙ブログより抜粋で。
--
すごく面白いです。一風変わったラブコメを観たいなら自信を持ってオススメできる。
ただ、個人的にはちょっと期待しすぎた感があって、もう一息インパクトが欲しかった。
脚本の段階からはっきりとコメディ色だった『純喫茶磯辺』に比べると、良くも悪くも“普通”すぎて。
普通と言っても映画としてありきたりってことじゃなくて、リアリティありすぎて生々しいっていう意味。
タイトルや主役の三人が肩寄せ合うキービジュアルから予想されるであろう、ポップな三角関係はいい意味で裏切られる。
確かにそんな感じの恋模様なんだけど、三角関係未満の一方通行な想いのせめぎ合い。
悪意のない天然小悪魔な桃の思わせぶりな振る舞いに、ちょっとイタいナルシストの百瀬が一方的に熱を上げ、そんな関係に気づいてもいない佳代が、遠のいていく彼の思いを必死に引き留めようとしがみつく。
ほんとにもう、ただそれだけのお話なんだけど、その過程で描かれる、男と女の愚かさとか醜さとかが、もう笑っちゃうしかないぐらい、痛々しくも切ない。そして恐ろしい。
とりあえず男の自分からすると百瀬に肩入れせざるを得ない。
桃みたいな女の子が目の前にいたら、思わずその気になっちゃうだろうなぁって同情するし、幾分めんどくさい女の佳代にしたって、あんだけ献身的にされ、感情をぶつけられれば情も湧くし、守ってあげたくもなる。とどめはあの笑顔でしょ。そりゃコロッとやられますって。
たぶん女性がこの映画を観ても、立場を逆転して百瀬を同じように感じるんじゃないかな。
三人が三人、多少イタいとはいえ、まあまあ普通の人たちなのに、えらくキャラ立ちしてるのがこれまた愉しい。
三人を演じる高岡蒼甫、田畑智子、小野恵令奈それぞれが、ほんとにいい仕事してると思う。
百瀬にしても佳代しても、決して出来のいい人間じゃない。明らかに人間的な欠陥を抱えてるんだけど、それでも惹かれ合う。
憎たらしい相手であっても心配してしまう、優しくしてしまう。そうやってどこか欠けた者同士が支え合うのが人間だよね、って好意的に受け止めさせる幸福感がこの映画にはあるの。まさに人間賛歌。
付け加えると、エンディングに流れる主題歌『空が白くてさ』のアコースティックな響きが、ラストに見せる田畑智子の笑顔とともに非常に心地よく、余韻を残す後味がすこぶる良い。
それにしても田畑智子さん、あんたは素晴らしいよ。いい女優さんだ。
前々からお気に入りの方だったけど、これまでで一番輝いていたんじゃなかろうか。
一見普通に素敵な女性なのに、一途な愛情が徐々にあらぬ方向にずれていく可愛らしさといったら、背筋が凍るぐらいに愛おしい。
そしてラストのあの微笑みでしょ、まんまと惚れ直しました。ああ女って恐ろしい。