劇場公開日 2010年5月15日

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「『96時間』×『48時間』×『アルティメット』÷3」パリより愛をこめて 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5『96時間』×『48時間』×『アルティメット』÷3

2010年6月6日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

興奮

こりゃもう断言してしまってもいいかもしれない。
『アルティメット』、『96時間』、そして本作……。
ハズレの多いリュック・ベッソン原案作品群において、ピエール・モレル監督はそれを確実に面白く仕上げる事ができる唯一の監督なんじゃあないのか!?

本作は『96時間』のスピーディでキレ味鋭いアクションに、『48時間』から連綿と続くバディムービーの笑いを注入。
やたら口の汚いスキンヘッドのオッサンの殺人スキルに震撼した直後、それに振り回されるJ・R・マイヤーズのポカンとした表情が笑いを誘う。生き方も見た目も超チグハグな2人のやり取りや、その2人が意外と良いコンビ仲を見せる様がすんごく楽しい。
無口な運転手やトボけた大使館員などのサブキャラもいいスパイスだ。

そして今回もモレル監督は見事なアクション演出を見せる。とにかくスピーディだった『96時間』のアクションに、『アルティメット』のようにスローモーションを駆使した“魅せる”アクションを追加。この使い分けがヒジョーに巧み。
特にマネキン倉庫での銃撃戦はケレン味タップリだ。トラボルタがサブマシンガンを撃ちまくりながら砕け散る石膏の雨の中を走り抜けるシーンは、ここ数年観たアクションシーンの中でも屈指の美しさ。

だがそれらの笑いやアクションの流れを、センチな物語が阻害している。
物語が終盤に差し掛かる頃、この映画における最大の敵が判明するが、その人物がなぜ犯行を企てたのか、その部分がガコッと抜けている。この“なぜ”こそが、キャラクターの人となりを物語る最大の部分のはずなのに。
これでは主人公と敵が最後に交わす会話も薄っぺらいだけだ。

センチメンタルな物語が悪いとは言わない。だが中途半端にそういった要素を盛り込んだのでは、エンタメ映画としてのテンポは落ちるし、なにより映画の中の人物を単なる物語の材料としてぞんざいに扱っているようにしか見えない。それではあまりに愛が無いじゃないか。

敵の正体については映画のオチに関わる部分だし、いかにも“ベッソン”な展開だから、原案の時点から存在したアイデアと考えるのが自然だろう。脚本にする段階等でもう少し練れなかったのかなあ。
だがこの薄っぺらな脚本をアクションと各キャラの掛け合いだけでここまで娯楽性豊かに、しかもテンポ良く仕上げた辺り、「この監督、やっぱりタダ者じゃ無ぇ」と言いたくなる。

<2010/5/15鑑賞>

浮遊きびなご