劇場公開日 2011年1月7日

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「CGを押さえたガチなクラッシュシーン。それに立ち向かう人間ドラマにスカッとした爽快感を味わえました。」アンストッパブル(2010) 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0CGを押さえたガチなクラッシュシーン。それに立ち向かう人間ドラマにスカッとした爽快感を味わえました。

2010年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 デンゼル・ワシントンの『サブウェイ123 激突』に続く鉄道パニック作品。但し今回登場する貨物列車には、大量の化学薬品とディーゼル燃料が搭載されているという、前作よりもデンジャラスな設定です。暴走の先には、脱線必至の大曲なレール部分が待ち構え、しかもその箇所が、住宅密集地の中にあり、もし脱線して爆発したら、10万人規模の死亡者が出てしまうという、単に鉄道事故では済まされないパニックに突き進んでいたのです。
 いかにも映画的な筋書きですが、事実に基づく映画化というのが驚きです。しかもきっかけは、暴走する貨物列車777号の運転手が、ちょっとポイントを変えてやろうと運転台から降りたことから。その隙に、777号は無人で走り始めます。本作でも、あり得ない無人列車の暴走の始まりを、説得力ある展開で描き出していました。こんなささやかなミスで、10万人規模のパニックが起こるのが本作の妙味ですね。

 これまでの暴走列車ものは、テロリストによる列車乗っ取りが多くて、暴走シーンそのものは、意外と単調でした。しかし本作では、無人列車だけに、走る凶器と化した777号がまるで意志を持ったかのように、行く手を遮る物をはね飛ばし、押しつぶしながら猛進します。踏切で立ち止まった大型のキャンピングカーや衝突を回避しようとした対向する貨物列車の最後部。そして暴走を止めようとレールに仕掛けられた脱線器。それらを火花を激しく飛ばしながら突破していくクラッシュシーンは、極力CGが押さえられ、実物のガチンコで撮影されているのばかりですから、すごい大迫力で圧巻です。
 なかでも圧巻は、暴走列車を止めようと正面から連結してブレーキをかけた2連の機関車が脱線転覆して炎上するシーン。実際の線路上で、よくぞこんなシーンが撮影できたものです。

 この走る狂気を、当局の制止も振り切って、旧式機関車で追い掛けて何とかとめようとしたのが主人公の勤続28年のベテラン機関士フランクと僅か就職して4ヶ月の新米車掌ウィルでした。

 会社から、強制的な早期退職を命じられたフランクと、鉄道一家の子息故に縁故採用され、会社に優遇されているとやっかみで思われているウィルには、ぎこちない雰囲気が漂っていました。事故に直面して、777号を止めようとするフランクにウィルは猛反対するものの最終的には、フランクの経験とカンに敬意を表し、命がけの作業に同意するのでした。
 ふたりを突き動かしたのは、鉄道マンとしてのプライドでしょう。777号と間一髪正面衝突を避けたのに、またしても命掛けの危険に立ち向かっていく男気が心地よかったです。

 しかし、777号に追いついてからも作業は難航します。連結してしまうと普通は一件落着ですが、本作では、ここからがホントのヤマ場。仕掛けの多さに惹き付けられました。 連結器を固定しようとしたウィルは、足を挟まれて大けがを負い、連結してもブレーキが焼き切れてしまい、777号は一向にスピードは落ちません。やがて列車は問題の大曲にさしかかります。果たしてふたりは列車を止められるのか、大惨事が起きてしまうのか、劇場でお確かめください。
 ところで、本作では人間ドラマも秀逸です。ぎくしゃくしていたフランクとウィルに事故を通じて男同士の固い絆が芽生えていくところがなかなか感動的です。
 また、フランクにはふたりの娘とぎくしゃくした関係をかかえ、ウィルも妻と別居中でした。かけがえのない家族との愛情を取り戻したいと願いながらも鉄道マンとしての使命果たそうとする姿をテレビカメラが追い掛け、テレビ報道に気付いたそれぞれの家族の表情がシリアスに変わっていくところも良かったです。

 会社にクビを言われつつも、職人根性で命がけの作業に取り組むフランクの渋さや男気は、やはりデンゼル・ワシントンならではと思えました。
 ど派手なアクションの末にスカッとした爽快感が味わえる傑作として、お勧めします。

流山の小地蔵