大奥 : インタビュー
デビュー当時から芯の通った立ち居振る舞いを一貫してきた柴咲。本来の性分は、“女傑・吉宗”とは程遠いという。「私はどちらかというと、トップに立つ人の影にいて提案する側。だから、自分の今の立ち位置は不思議ですね。私が19歳のときに母が亡くなったのですが、目立ちたがり屋だったんですよ。小さいころに『あなた歌手になりなさいよ』なんて言うような人で。歌手なんてなれるわけがないじゃんって思っていたら、実際になっているんですから」
少女コミック誌「MELODY」(白泉社)に連載中の原作は、現在までに類型発行部数160万部を突破。映画では第1章の「水野・吉宗編」が描かれているが、エンディングでは吉宗の本当の戦いはこれから始まることを予見させる。
日本の将来のために強い覚悟をにじませる面持ちがうかがえるが、柴咲も劇中の吉宗には強いシンパシーを感じている。「私も自分だけ幸せでは全然楽しくないんですよ。ある程度の生活保障がないとイヤですけど(笑)、自分が活躍することで、この体を使って何ができるだろう、どう活用できるだろうって考えますね」
だからこそ、いずれは田舎生活にあこがれるそうで「質素で自給自足が理想ですね。お金も人の心も動かしたいから、ずっと仕事は続けると思いますが、仕事の仕方や内容は変わっていくんでしょうね。方法や手段が増えるのか、変わるのかは分かりませんけれども」と真しな眼差(まなざ)しで語る。
そんな柴咲にとって、同作はある意味では分岐点になったともいえる。これまでは時代劇にあまり食指が動かなかったと明かし、「人間が言う100年、200年ってそんなに昔じゃないなって感じられるきっかけになった作品です。近いな……と思えたからこそ、過去を生きた人たちを切り取る映画、物語にこれからも出られるなと思いましたね」とニッコリ。さらに、「時代劇ってこれまであんまり興味がなかったんですよ。非現実な話し言葉でやり取りしているのが近くないように感じていたんですが、すごく近いことがわかった。それがつながっているから現代があるんですよね」と自らに確認するように説明してみせた。
見る者にとって、「大奥」という作品にかかわったことが、柴咲にとって大きな意味を持っていたのだと何年後かに思い返す日が来るかもしれない。かつての自分を「ガツガツ、ピリピリしていて濃かったですね。それは、強い色を持ってさえいれば染まらずに済むという意味で、自分を守るための防衛手段でもあったんですよ」と述懐。そんな時期を経て、「最近は中和されてきて、水彩画みたいにぼんやり淡くなってきているように感じますね。そうすれば何だって受け入れられるし、どんな役がきても順応できると思いますから」と屈託なく答える姿は、まさに現代を生きる“女傑・吉宗”の姿そのものだった。