劇場公開日 2010年8月21日

「等々力と二子玉川の間で、輪廻転生の意味を問う」カラフル こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5等々力と二子玉川の間で、輪廻転生の意味を問う

2013年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

けっこう重い作品だ。アニメでいいのか、中学生が主人公なのだが中学生にわかるのか、と見ながら思うときもあった。しかし、見たあとには心に爽やかな風が吹きこんだような、とてもいい気持ちにさせてくれた。今年の日本映画、最大の注目作かもしれない。

 この作品は、自殺した男の魂が、天国へ向かう寸前に、もう一度やり直す機会を与えられて、同じく自殺した男子中学生の身体に宿ることになる、という、なんと輪廻転生の物語だ。そんなインド仏教観のようなところから始まるせいか、最初は、これは仏教でいうと何なのか、というようなものを気にしながら観ていた。たとえば、この世に戻った魂を導くマセガキのような子どもは、地蔵菩薩なのか八部衆なのか、なんていうふうに(そこまでの存在感はないかもしれなかったが)……。
 それがこの作品を重いと感じた要因ではない。この作品には、若年の自殺の意味するものを、中学生の周囲からのさまざまな視点からとらえようとしている点だ。それは同時に、輪廻というものにも言及している。

 自殺から生き返った中学生は、新しい魂を得て、以前とはどこか違う人間になろうとする。しかし、そうすることで、さらに周囲からの目線は厳しくなり、自分も周囲にとけ込めず、さらに浮き上がってしまう。それが本来の輪廻転生なのかどうか。

 人間というのは、そう簡単に生き方や人間性など変えられるものではない。だから、自分のことが嫌いで、死んで生まれ変わったとしても自分は変えられないものだ。だからこそ、自殺ではなく、自分をさらけ出して人と付き合い、理解者、友人を得て、人は成長するもの、ということを、この作品は一貫して主人公や観客に問う。そして、その回答のようなものを感じたとき、主人公と同じように爽やかな気持ちになって前を向きたくなる。そして、もし本当に人間に輪廻があるのなら、またふたたび、それまでの自分を生きることに一生を費やすべきと、この作品は教えてくれているような気がする。カラフルとは、個々の人間を意味したタイトルだが、この作品を見ると自分の色が好きになる、だから見たあとの気分が良くなるのである。

 この作品には注目すべき点が多いのだが、何より面白いのは、等々力と二子玉川をかなりフィーチャーしている点だ。特に、二子玉川は道筋の一本一本まで再現して見せているのには、原恵一監督以下の凝り性に感服させられた。

 さらに、世田谷の路面電車が出てくるのにも驚かされたが、映画オタクの私個人的には、昔の成瀬巳喜男の映画を思い起こさせた。成瀬は砧の撮影所付近に住んでいたこともあってか、ときどき撮影現場が世田谷路面電車のそば、ということが多かった。
世田谷を舞台にした成瀬の作品には、さまざまな家族が描かれていた。特に、夫婦の気持ちのすれ違い、というものには、成瀬一流の演出が見られたが、親子関係に関しては、愛情の豊かさのみだったと思う。その代表作が「おかあさん」だ。「カラフル」に登場する家族は、成瀬が描いてきたものとは真逆だ。路面電車が出てくる作品でもまったく違うテイストのものが創られる、というのには、日本映画の歴史、日本の家族の変遷を思わずにはいられなかった

こもねこ