「後味アッサリだが大安定のエンタメ大作」スター・トレック イントゥ・ダークネス 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
後味アッサリだが大安定のエンタメ大作
『スター・トレック』シリーズについては映画の前作とドラマ版
(ピカード艦長の出るヤツ)を数話観た程度の人間のレビューです。
たぶん『ダークナイト』以降からだと思うのだが、大作の
続編ものはダークな雰囲気を匂わせたり悪役を前面に
押し出した方が売れる!みたいな風潮がある気がする。
ベネディクト・カンバーバッチ演じる悪役ハリソンは確かに
凶悪で強力な敵ではあるが、他にも色々フィーチャーしていい
部分があると思うんですけど。
スポックとカークの信頼が深まっていく過程とか、
アクションアドベンチャー的なノリの部分とか。
今回の『人類最大の弱点は、愛だ』というキャッチコピーも、
最初の10分しか関係ないぢゃん。煽りすぎノンノン。
ちなみに海外版ポスターをいくつか確認したが、『愛』だの何だの
とは一言も書かれてないようだ(悪役推しの予告編は同じだが)。
そんなビジネスの臭いを感じる宣伝は好きになれないが、
本編には予告編ほどの深刻さはなく、前作同様に派手で楽しくて
緩急の付け方もしっかりした一級エンタメ大作に仕上がっていた。
真っ赤な樹林帯を疾走するオープニングから迫力もユーモアも全開!
怒り任せだったカークが艦長としての責任感に目覚めていく過程
も良かったし、感情表現のヘタなスポックがカークとの
友情を通じてどんどん深みのある人間(正確にはハーフだけど)
になっていく所は特に感動的だった。
悪役ハリソンもただの快楽主義的な殺人鬼ではなく、
ある遺恨が理由で暴走している点に魅力を感じる。
それにターミネーターばりに強くて早くて存在感十分だ。
あと個人的にはサイモン・ペッグ演じる整備士スコッティや、
今度も「キャッチが得意」なチェコフの大活躍が嬉しかった。
画的な迫力も見応え十二分だし、物語にもヒネリが利いている。
キャラ説明に時間を割かざるを得なかった上、
悪役の魅力もイマイチだった前作と比較して、
グッと面白くなったと言って良いと思う。
というわけで、鑑賞中は間違いなく楽しく、
これは傑作手前の4.5判定くらいでも良いかと思ったのだが、
観終わって1週間経った今はというと--
僕は『LOST』『FRINGE』等のエイブラムスが携わったTV作品を
観たことがないので映画監督としての彼しか知らないのだが、
彼の映画ってどれも、良い意味でも悪い意味でもアッサリ味。
コテコテのハンバーグ(映画の題材)でもおろしポン酢を
かけたみたいにアッサリ後味に仕上げてしまう。
(ロロ・トマシさんのレビューの『無味無臭』
という表現は恐ろしく的確だと思う)
ウェルメイドではある。だがインパクトがない。
あるいは理性で作ってる感が否めないというか。
『スターウォーズ』の新作も楽しめる出来にはなりそうだが
革新的な傑作!とまではいかないのではという予感がします。
本作品でもその印象は同じ。
見せ場見せ場の連続を魅力的なキャラとユーモアそして
ドラマで繋いでみせて2時間超の上映時間が嘘のような
快テンポで非常に楽しいのだが、
観賞後3日くらい経った後は、スポックの怒号と最後の格闘戦と
赤い森林くらいしか具体的に思い出せない。
それでも、スポックの内面の変化を描く部分については
これまでのJJ監督作品中で最も感動的で、本作は監督の
フィルモグラフィにおける現時点での最高作と言って良いと思う。
というわけで、4.0判定!
ぶつぶつ書いたが、並の大作より確かに一段上の面白さで満足。
まあしかし……こんだけ楽しませてもらって文句ばっかし書いてる
僕も大概ヤな奴である(苦笑)。
〈2013.8.24鑑賞〉