「今のうちに、お休みなさい・・・」トランスフォーマー ダークサイド・ムーン ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
今のうちに、お休みなさい・・・
「アルマゲドン」などの作品で知られるマイケル・ベイ監督が、シャイア・ラブーフ、ジョン・タトゥーロなどの俳優陣を迎えて描く人気ロボットアクション映画、堂々の第三弾。
真夏のうだる暑さが憎らしいひと時、人間ドラマにじっくり浸りたい方は何を間違っても、この作品のチケットを握り締めてはいけない。長澤まさみが可憐に、気高く奮闘する「コクリコ坂から」の方を是非とも、お勧めしたい。その方が、野口英世先生も日本国に正しく、貢献できるというものである。
人間と、ロボットの間で勃発する一大戦争を壮大に、かつ勇壮に描き出す本作。裏を返せば、その戦闘世界が画面狭しと暴走していく後半に行き着くまでの、陳腐に金を掛けた脱力感漲る前半の群像劇の描写は、極端な話を言わせて頂けば、うたた寝して頂いても案外、支障は無い。
作り手が本腰を入れて描き出すテーマは、全て後半に全力で押し込まれているのは観客の目から見ても明白の事実となっている。
思わず舌打ちを連発してしまう程に大根ぶりが発散している主人公の恋人役の女優、やっぱり中国の薫りがするアジア人の三枚目など、もう目も当てられない豊かな、豊かな人間ドラマに思わず椅子を立ち上がりかける絶妙な瞬間に、唐突に始まる戦争アクション。このために、夏休みの貴重な一日に野口先生を出陣させる理由がある。
「アイランド」(05)で実感した、作り手の破壊に対する独自の美学、新しい映像、驚きへの凄まじき意欲が本作でも遺憾なく発揮されている。ワイヤーに踊らされ、ぶりぶりと振り回される人間達を、より違和感無くじわじわロボットCGとの二人羽織に近づけていく技術と、魅せ方。今、映画芸術に出来る表現の最大点と、これから目指すべき可能性をきちんと、観客と映画界に突き付ける力強さが光り、私達をラストまで引っ張っていく。
あくまでも、本作の主役はロボットであることを認識し、サポートの形を貫くキャスト陣のしたたかさと聡明さも嬉しい。実物よりもさらにやる気の無い大塚寧々を連想させる司令官以外は、きちんと控えた演技に徹しているのは、長年映画に挑んできた作り手の演出が発揮されたのだろう。
終盤に大事な役割を果たす大根女優にしばし「イラッ」としつつも、そこはご愛嬌。常に、新しい「目標」を映画関係者に差し出してくれる作り手の確かな手腕に心躍らせ、夏の身体はすっきり爽快。まさに、アクション映画の模範的な迫力と、創造力が活きる一品である。