「任侠ファイナルデスティネーション」アウトレイジ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
任侠ファイナルデスティネーション
北野武監督の作品は毎回まったく違った味の映画になるから面白い。
今回も、これまで何本もバイオレンス映画を作ってきたというのに、まるで違う印象の作品を作れるのだから恐れ入る。
今回は観終わった直後、『こりゃ任侠ファイナルデスティネーションだ!!』という変な感想が頭に浮かんだ。
誰が、いつ、どんな死に様を迎えるか。
この映画でそれを予測するのはかなり難しい。油断していると0.5秒後には恐ろしい事態が待ち構えている……それを開巻15分くらいの“カッター指詰め”で思い知らされてからはもう緊張と恐怖の連続。
この緊張感はもはやスプラッタ(血しぶき)ホラーの領域だ。同情したくなる方々があまり登場しないので心が痛まないという点もアメリカンホラーに近い(笑)。
しかも『OUTRAGE』は、並のスプラッタホラーでは到底太刀打ちできないくらいに……痛い。
とにかく痛い。
観てるこっちの方が「ぎゃー!!」と叫びたくなるくらいに、情け容赦無く観客の痛覚を刺激する。
指詰め割り箸カッターナイフ、首折り歯医者に中華包丁……
イヤイヤそこまで見せなくても!!と顔が引きつるくらいの出血大サービスにアナタは叫ぶか黙るか。
この映画を気に入るかどうかは人次第だが、最低1ヶ月は歯医者に行く気が失せる事だけは保証します。
同情できるキャラが少ないと先に書いたが、北野武演じる大友は、部下達を逃がそうとしたり「貧乏クジばっかりだよ…」と諦めたように愚痴ったり、この映画で唯一人間味を感じさせる人物。
サウナで銃をブッ放すシーンでの「やってられっか、こんな仕事」とでも言いたげな表情が印象的。
“上司”連中の手前勝手な事情にさんざん振り回され、利用されるだけ利用された挙げ句に捨てられる彼の行く末は悲惨だ。彼も度を越えた悪党には違いないし、映画を観ている最中はそこまで哀れには思えなかったが……こうしてレビューを書く為に各シーンを思い出していると、彼がなんだか無性に気の毒に思えてくる。職業は違えど同じ立場の人間は今も沢山いる訳で。
義理人情を重んじる人間は消え、狡猾な連中だけが生き残る……今に始まった事じゃないが、全く世知辛い世の中です。
鑑賞直後はさほど『良い映画』とは思わなかったのだが、強烈なインパクトを残す画や台詞が多く、なかなか頭を離れない。1週間経った今になって「なんかもう一回観たいなぁ」という気にさせる不思議な映画。
<2010/6/12鑑賞>