「市原隼人がボクサーに大変身!大熱演!ただカントクちょっとボクシングに入れ込み過ぎですよ~。」ボックス! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
市原隼人がボクサーに大変身!大熱演!ただカントクちょっとボクシングに入れ込み過ぎですよ~。
まずは、冒頭カブが電車の中で、幼なじみのユウキを助けるべく、悪ガキ相手に鉄拳を振る舞うシーンが痛快です。圧倒的強さに、大阪弁で愛嬌たっぷりに啖呵を切る市原隼人の魅力が、一気に画面を埋め尽くしました。
李闘士男監督だけに、カブのはちゃめちゃなやんちゃぶりは、『猿ロック』のサル以上。笑いもたっぷり取ってくれました。
そして何よりもすごいと思ったのは、市原の体躯。『猿ロック』の時から、明らかに鍛え上げられて、いかにもボクサーという身体を作り上げていたのです。
そのために数ヶ月の特訓に耐えて、気合いのため頭を坊主刈りにして、本気でボクシングに取り組んだ作品です。特にシャドウボクシングをしているとき、その凄みが画面から伝わってきました。風を切るような素早いパンチなんです。その直向きに打ち込む姿は、マネジャーの丸野友子がカブのそれを見て、『「オレはここにいるんだ!」と主張しているみたい』と感じた意味が、ストレートに伝わってきます。
市原がガチンコで、ボクシングに体当たりしているだけに、ラストの強敵との対決シーンは、ど迫力。撮影ではヘッドギアはつけたものの本気で打ち合っており、李監督は「間違いなく『あしたのジョー』より強い!」と太鼓判を押したそうです。
ボコボコに打ち合っていて、今までのボクシング映画でここまで本気モードで殴り合っているのはないでしょう。最後の2分間は1カット1テイクになっていて、これはもう永遠に残る名シーンだと折り紙つけたくなりますね。
ところで、試合を知り抜いているとしか思えない、カット割りの細かさと適切なカメラワークに、これは相当なボクシングオタクが、製作に関わっているのに違いないと直感しました。そしたら何と、李監督自身が、幼い時からジムで鍛えていたそうです。
市原もボクシング・マニアだそうです。だから本作には、手抜きのないボクシングが演じられたわけです。
ただ本作は、製作者のボクシングオタクぶりが過剰すぎて、李監督らしいコメディタッチが影を潜めて、ひたすらボクシングを魅せる方に視点が変わっていきます。(要するに、急につまらなくなります。)
その原因として、考えられるのは、ちょっと監督が入れ込み過ぎたのではないかと思います。そのためストーリー展開のツメが甘くなってしまいました。
例えば、カブがたった一度の敗北で、落ち込んでしまいボクシング部を離れてしまいまうシーン。それによって、話の軸がユウキのボクサーとしての成長に移ってしまい、見ている方は、カブに感情移入してきたのが急な主役交代で、混乱してしまいました。いじめられっ子だったユウキのサクセスストーリーだったのかと思ったくらいです。
そして、マネージャーの智子を不治の病で殺してしまうタイミング。これちょっと早すぎます。だいたい登場している間は、とても不治の病とは思えないくらい元気な子だったので、余りに唐突でした。
智子が生きていたら、カブのボクシング復帰へのモチベーションも変わっていたことでしょう。
感動のラストシーンではありましたが、学生プロレスの『ガチ★ボーイ』のラストと比べると、何のために戦うのか、戦って何が変わり、何を得られるのか。戦いのモチベーションが見えなかったことが残念です。ストーリーなんて二の次で、ただ熱い試合を魅せたかった。「どうだ、ボクシングはすごいだろう!」そんなボクシングオタクの賞賛する声が、聞こえそうな終わり方でしたね。
その反面、面白いのは本作での教訓。ボクシング天才児のカブが、終盤でいじめられっ子だったユウジに敗北するのです。カブは、あしたのジョーに似て、努力を嫌う一発屋でした。そんなカブに憧れて、ボクシングを始めたユウジは、才能がなかった分、練習に打ち込んだのです。凡人といえども、バカの一つ覚えで、努力を蓄積していくと、天才を凌いでしまうのですね。そしてカブの弱点を見抜き、見事に打ち込んでKOしてしまうのです! 積小為大。才能がなくても努力すると報われるものです,。
カブもこれには、相当ショックだったようです。
ただその失敗によって、カブも自分のスタイルやスタミナの少なさを反省して、一発屋を卒業。手数の多いボクシングスタイルを身につけるです。
ただの仲良しでなく、心を鬼にして向き合うことが出来るカブとユウジの関係は、羨ましいくらい、深い絆で結ばれていたのです。
感動はするけれど、何か物足りなさを感じてしまう作品でした。そういえば、ラストのボクシングシーンで、カブを応援する観客の中に、ひと目見ただけで分かる大物がいました。大声を張り上げている姿が様になっている、その人とはなんと亀田興毅(本物)でした。