劇場公開日 2010年2月27日

  • 予告編を見る

「サンドラの熱演とは裏腹に、全体としては、話の盛り上げ方が上手いとは思えませんでした。」しあわせの隠れ場所 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0サンドラの熱演とは裏腹に、全体としては、話の盛り上げ方が上手いとは思えませんでした。

2010年3月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 とにかく主演のサンドラがいいです。さすがはアカデミー主演女優賞をとっただけのひとはあります。
その背景にあるのは、出演のオファーを受けるのに以前ならダボハゼのように飛びついてのが、熟考してから承諾するように変わったこと。主演女優賞は演技力だけでなく、キャストの企画力や意外性も問われるのだそうです。賞取りを目指すには、今この役を演ずる意味と予想される評価を十分検討しなければ、演技力だけではノミネートすら難しいようです。

 本作は後味がさわやかでハッピーになれるストーリーがウリです。どうも日本人のお国柄というのは、金持ちに対して嫉妬心が強い人が多いようで、本作のような金持ちが貧乏黒人を助けて養育するという話に素直に祝福できない人もいるようです。そんな人は、小地蔵の目から見ると貧乏神が取り憑いている場合もありますから、気をつけてください(^_^;)
 これもお国柄ですが、わが国の場合すぐお上に頼ろうとするところが多く、本作の場合もすぐ社会福祉政策の欠乏じゃないかと見る向きも多いことでしょう。もっと個人の力というものに注目してもいいのではないかと思います。皆が裕福になって、本作のように世界中の飢える人々を、国家でなく個人の与える愛の力で支え合うことができれば、どんなに素晴らしいでしょうか。だから小地蔵は「清く貧しく」でなく、「清く豊か」に繁栄を目指すことは、大いなる善なのだといいたいですね。

 ということでストーリーは、裕福な主婦のリー・アンは、ふとしたことから親も家もなく愛も知らない黒人少年マイケルを家に引き取ります。新たな「家族」の温かい応援を得たマイケルは、恵まれた体格を生かし高校アメフトで大活躍します。学業にも励んで大学進学を果たし、ついにアメフト全米代表のスター選手になったのが2009年。つまり、紛れもない現在進行形の実話なのです。
 ヒロインが周囲の偏見に少しも動じず、正しいと信じることを貴く毅然としたところは、サンドラがビシって決めてくれて、胸がすくくらい気持ちいいのです。とってもカッコよさと行動力がさまになっていました。

 見逃せないことに、マイケルを引き取った根底には一家のキリスト教信仰がありました。マイケルの存在を通して、彼らも感謝の心や絆を強めていったのです。
 それでも黒人のマイケルをアンが突然連れて帰ったとき、家族の皆があんまり素直に受け入れたのが意外でした。やはりクリスチャンと文化の違いでしょうか?

 あるとき、ヒロインのランチ仲間のリッチな主婦たちが、黒人への優越意識丸出しで彼女に言う。「あなた立派だわ。彼の人生を変えたんですもの」。だがヒロインは、こう切り返す。「いいえ。彼が私の人生を変えてるのよ」と言い返すところが印象的でした。
 もう少しアンが具体的にどう考え方が変わっていったのか。マイケルに与えられていたのか。その心の奇跡の部分を綴って欲しかったと思います。

 全体としては、話の盛り上げ方が上手いとは言えません。サンドラの熱演とは裏腹に、マイケルが成功していく展開と肝心のマイケルがアンの善意に疑問を感じて家出したのち戻ってくる過程は、ちょっと雑な感じがしました。同じアメラグを扱う『インビクタス』のほうが試合の描き方が感動的だと思います。
 最後の進路を決めるところはよかったですね。

 でもエンドロールに写る実際の、アン一家とマイケル・オアー選手の数々を見ていると、ホントにごく最近の実話なんだと実感がこもってきて、胸が熱くなりました。チョットした善意が、ひとりの青年の未来を大きく花開かせたのですから。

 でも、一番得したのは、長男のS.J.くんだったかも(^_^;)
 エンディングの後に出てくる彼の得意満面なところに、びっくり。本当にマイケルをスカウトした大学は、SJくんの突き付けた要求を全部飲んだのですねぇ。

流山の小地蔵