ソルト : 映画評論・批評
2010年7月27日更新
2010年7月31日より丸の内ピカデリー1ほかにてロードショー
現実の呪縛に萎縮するハリウッドに風穴を開ける新しい女性アクション
かつて、シガニー・ウィーバーやジーナ・デイビス、そして、ハル・ベリーあたりが果敢に挑戦して撤退を余儀なくされた、男社会のハリウッドで最も実り少ない“アクション女優”という領域を、唯一開拓し続けているアンジェリーナ・ジョリーである。冒頭でいきなり北朝鮮兵士の水攻めリンチを受けて泡を吹き、次に暴走トラックの屋根から屋根へ乗り移ったかと思えば、降下するエレベーターめがけてスパイダーマン張りの壁伝いジャンプも厭わない。勿論、タイトスカートのスリットを無駄に深くしたり、脱ぎ捨てたパンティで防犯カメラを覆う等の男目線を意識したサービスも忘れずに。そうして、いつしか映画は夢のない現実を静かに離陸して、女性スパイ・アクションという虚構の宇宙へと飛び立って行くのだ。
もしかして、それは本来の製作意図とは違ったのかも知れない。CIAの敏腕エージェントとして信頼が厚いヒロインのイブリン・ソルトが、ロシアの特殊機関で敵国の要人暗殺要員として育成された二重スパイの嫌疑をかけられ、汚名返上に着手するというプロット自体は、決して絵空事ではないからだ。劇中でも紹介されるが、JFK暗殺の実行犯とされるリー・ハーベイ・オズワルドにはソ連スパイ説が根強いし、つい最近、10年以上もアメリカに潜伏していた元KGBのスパイ10人が一斉に逮捕された事件が記憶に新しい。その中の一人は、アンジー顔負けの美女だったし。
しかし、スパイと聞いた途端、虚実に関係なく心がワクワクするのは我々映画ファンだけじゃないはすだ。だから、本来リアリティを目指したはずの「ソルト」が、フィジカル的にあり得ないシーンてんこ盛りの女優活劇へとシフトしても、誰も文句は言わないと思う。まして、9・11以降、男主導のハリウッド・アクションが現実の呪縛を受けて萎縮している昨今、この種の荒唐無稽は大歓迎である。
(清藤秀人)