「主人公の資質不足」必死剣鳥刺し Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公の資質不足
総合65点 ( ストーリー:60点|キャスト:65点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:65点 )
まず主人公の兼見三左エ門を演じる豊川悦司、体型がたいして筋肉もないし細いわりに脂肪もあってたるんでいてだらしない。一年間の蟄居の後の風呂で見せる体がやつれていないし、それからさらに二年後の風呂の場面でも同様の体型。たしか剣の達人なのだから、二年もたてば鍛え直していなければろくに剣を振ることも出来ないはずだ。それでは剣の達人である吉川晃司演じる帯屋隼人正と戦えないでしょう。せめてやつれた体か鍛えた体かどちらかに合わせて撮影に挑んでほしかったが、役作りが甘いのではないですか。女優として名声を確立していながら、猛特訓して肉体改造して『G.I.ジェーン』で特殊部隊兵士役に挑んだデミ・ムーアを少しは見習ってほしい。
客観的に見て一番正義感があって勇気と力もあったのは吉川晃司だが、ちょい役でしか出てこないため彼の人物像に迫れていないのは不満が残る。これでは中途半端な役回りで終わっていた。案外気に入ったのが、寵愛をいいことに藩政に干渉する連子を演じる関めぐみの演技。こういう立場を勘違いした理屈の通じない組織の害毒って時々いるよなと、現実に存在する人々の姿と照らし合わせて関心してしまった。
重大犯罪を犯して殿様にも嫌われている様子でもそのわりに家老に助けられたということで、家老が黒幕で何か陰謀が進んで、いずれその捨て駒に使われるのだろうという物語の流れはすぐに読めてしまった。この時代なんて不合理が普通にゴリ押しされてまかり通って、それでも階級の低い者はそれに甘んじなければならないというものだろうから、それはそれでいい。
だが一度は藩のために命を捨てる覚悟で連子を殺した兼見であるのに、藩を混乱させ続ける馬鹿殿様のために再び命を張ることを覚悟するという展開に疑問を持たなかったのだろうか。それとも封建時代の社会制度には逆らえず思考を止めて流されてしまったのか。個人的にはどうせ命懸けならば、帯屋と組んで藩政を改革するくらいの覚悟を決めてほしかった。黒幕一人くらいは退治したところで、一番の正義が死に一番の悪が残され、それが主人公の決断のために引き起こされたという物語は決してすっきりするものではない。
別にめでたしめでたしと終わってほしいとは思っていないし、勧善懲悪でなければならないとは思っていない。だが兼見の見せる覚悟に、主人公としての資質が足りないように思えるのだ。この程度ならば、最初の行動は妻が死んでやけっぱちになっただけともとれる。これならば帯屋が主人公であったほうがまだ良かったかもしれない。題名にもなった剣術の必殺技が一つの見所なのだろうが、こちらのほうも現実性がなくて納得しかねた。
ただ時々見せる時代考証のしっかりとした所作は良い。城の中で兼見が襖を開けて入っていく姿が実はかなり気に入っている。