「藩主交代。」必死剣鳥刺し ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
藩主交代。
藤沢周平の「隠し剣」シリーズの中では傑作だと思う。
「たそがれ…」に始まって、これまで様々な監督が
彼の原作を映画化してきたけれども、今回の作品は
内容はもちろん、隠し剣の使い方が見事に活きている。
説明のない冒頭から、フラッシュバックで語られる過去、
どうして主人公は、藩主の愛妾を刺殺したのか。
そしてなぜその主人公に藩は寛大な処分を下したのか。
謎が謎を呼ぶ(一応)ストーリーの面白さもさることながら、
終盤15分の壮絶な殺陣にはコレだ!と思わせる技がある。
トヨエツ演じる三左ェ門の持つ「隠し剣」の技と、監督の
時代劇はこうあるべきという魅せ技が見事に融合している。
藤沢の描く世界には必ず薄幸の娘(出戻り系)が登場して、
主人公と恋仲になったりするケースが多いので、その辺を
ツッこむとキリがないのだが^^; ファンがこのシリーズで
観たいのは、そんなものより(ゴメンね)、殺陣と技、である。
それが活きてこないと、せっかくの話も面白く感じられない。
地味で目立たない平侍が持った、特異な剣技なのである。
CGではなく血糊を使った「アナログ手法」を用いたため、
それは出すぎだろう!?と思うほど噴き出すシーンも多数
あったが^^;まぁ…そのあたりは不必要な濡れ場と合わせ、
目をつむることにする。。
鳥刺しという技を、子供に伝授して見せるシーンがある。
その和やかなシーンと(それがどういう技か)中老・津田に
説明するシーン(どんな時に使うのか)をよく覚えておくと、
あとでかなり見応えがあると思う。この作品はそんな風に
説明空間と実技(?)空間が前後に顕れるところが面白い。
観ているこちらに解説してくれるかのごとく、だ。
病弱な妻に鳥刺しを見せ、そして閉門された屋敷内では、
亡き妻のために鳥の木彫りを作る。その鳥も役割を持つ。
悲運の武士を演じたトヨエツは文句の付けどころなしだが、
彼を上回る印象を強く残すのが御別家・帯屋隼人正を演じた
吉川晃司。後半、刀を交わすことになる二人が、実際には
誰よりも藩と農民のことを考える尊大な人物であったこと
が深く胸に突き刺さり、闘ってはいけない同士が不条理に
刀を交わす無意味をその後の展開でまざまざと見せられる。
津田を演じた岸部一徳が物語のカギを握る人物となるが、
彼もまた巧いので最後の最後まで展開は読めないと思う。
それにしても、あんな藩主では海坂藩も終わりだ。。。
(一瞬プレデターを彷彿とさせるシーンが…あるけど、違う^^;)