「そろばん侍、天晴。」武士の家計簿 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
そろばん侍、天晴。
タイトルや予告を観た時に、これは面白い題材だと思った。
剣ではなく家計簿が主役…なんて今のご時世に嵌り過ぎ^^;
と、公開時期を勘ぐってしまうほど巧いなと感じた。
さらに実話から生まれた物語ということで、当時の下級武士
達がどんな物を食べて生活していたのか、とても興味深い。
こんな時代劇もアリなのか。と公開を楽しみに待っていた。
監督:森田芳光ということは、おそらく、
よくある普通の感動ドラマにはしないだろうと思っていた。
…当たった。(爆)
これだけの役者を揃えて、幾ら小さな話といえども(一応は)
幕末の激動の時代を生き抜いた家族の物語なのである。
多分監督が違えば、もっとボロボロ泣けるような時代劇にも
なっただろうし、必殺算用仕置人(いないって^^;)のごとく、
バッサバッサと悪を退治する活劇にもなった気がする(強引)
…が、完全に森田節が炸裂するドラマとなっていた。
そもそも、チラシが家族ゲームの食卓並びである。(爆)
しばらく観ていたらなんと、宮川一朗太まで出てきた…!
(この時は心で拍手大爆笑v)
随所にユーモアをちりばめようとした(成功したかは別として)
監督の目論みは仲間由紀恵の「…って言ったらどうします?」
(当時の人が、こんなこと言わないし)にも、よく顕れていた。
しかし、実際の内容の方は身につまされるほど、慎ましく(汗)
(今でいえば)たった一円の重みをずっしりと感じる話である。
代々御算用者として仕えてきた猪山家は、八代目の直之(堺)
の代になって、改めて家の借金が膨らんでいることに気付く。
一計を案じた彼は、家財道具を売り払い、家族に質素倹約を
誓わせ、詳細な家計簿を記していくことを実行にうつすが…。
息子の着袴の祝いに、膳にのせる塩焼き用の鯛が買えず、
嫁が描いた鯛の絵で代用する場面。見栄失っては武士の恥
ともいえる失態(見た目は)なのに、とても潔く気持のいい場面
だった。世間への体裁ではなく、息子への何よりの贈り物と
なったこのシーンには、実は後日談がある。ラスト、ここでの
シーンが再現されるが…私は今作のここで、はじめて泣けた。
「にらみ鯛」にちなんだ、もうひとつの大切な想い出。
家計簿に記されなかった(おそらく)
子供の記憶にもきちんと残っていなかったその想い出こそが、
そうまでして家族を守り抜いた父親の決意であるのと同時に、
誰よりも何よりも我が子を大切に思う親の真心の顕れである。
猪山家、天晴。
(家督を継ぐ苦悩もリアルだが、それが実を結ぶのもリアル。)