「本物の侍」武士の家計簿 清水さんの映画レビュー(感想・評価)
本物の侍
「そろばんバカ」の猪山直之(堺雅人さん)の真っ直ぐな生き方は、見ていて気持ちが良かったです。
江戸から明治へと時代が変わる乱世の中で、彼は見事に家を守り抜き、息子にその会計術の全てを授けます。
家に借金があると分かり、売れるもの全てを売り払い、倹約して借金を返していく様子は、
大変そうだけど明るかったなー。
仲間由紀恵演じる直之の妻、お駒が、直之に「(倹約生活は)辛くはないか」と聞かれて、
「貧乏と思えば苦しいですが、工夫だと思えば、楽しいです」
みたいな意味の事を言うのですが、それが何となく印象に残りました。
この夫婦の雰囲気は、本当に微笑ましいものがありました。
出会いから、苦楽を共にし、共に老いていく姿が、とても羨ましかったです。
(堺さんファンだから仲間由紀恵に嫉妬したということではなく笑)
息子が生まれて、袴着のお祝いの席で、食事に鯛が出せず、普通の焼き魚の前に鯛の絵(お駒が描いたもの)が置かれた膳を親戚一同で囲む姿は、ハラハラしたけど面白かったです。
色々と苦難は耐えませんが、それでも猪山家の人々は絶望することなく日々を生きていきます。
真面目すぎるほど真面目な直之に呆れながらも、一緒に借金返済のため協力し合ってがんばる猪山家の人々は、茶目っ気たっぷりで、質素な生活もなんだかコントに見えてしまいました。
ただ、直之の父(中村雅俊)の葬儀の夜も、葬儀費の帳簿を付ける直之の背中に「そろばん侍だから?」と問いかける息子の直吉は、とても悲しそうで、胸が痛かった。
でもこの場面は、最後のとても重要な締めの伏線となるのです。
それから、家の借金を返す途中の倹約時代に、直之が幼い息子に四匁の過不足も許さず、ひろった銭を夜中に河川へ戻しに行かせるシーンは、あまりにも厳しすぎるのではないかと思いましたが、それが、刀ではなくそろばんが武器である猪山直之にとっての譲れない矜持だったのだと今は感じます。
やはり、実在の人物の人生を映画にしたものなので、きれいな起承転結で終わるわけではないのですが、
このように生きた人が本当にいたのだなあ、と感動することができました。
刀を振るうことは全くなかったけれど、彼は(彼らは)紛れもない本物の侍であると感じました。