「日本映画の伝統。ヒット曲をストーリー化」ハナミズキ 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画の伝統。ヒット曲をストーリー化
日本映画界の伝統と言うべき、ヒット曲をモチーフにストーリーを構築する。古くは「上を向いて歩こう」や「真っ赤な太陽」。「高校三年生」、「骨まで愛して」、「銀座の恋の物語」等々。枚挙にいとまがない。
最近はラップ調のヒット曲が多くなり、韻を踏む歌詞がもてはやされるおり、ストレートに愛する相手を思いやる歌詞が受けたのか(半ば一方的だが)恋をした経験を持つ人には、十二分に気持ちが伝わって来る歌詞だと思う。
映画を強引に解体するとほぼ3章に分かれるか。
主人公である新垣結衣と、生田斗真の出会いから離れ離れになるまでが約40分位で第1章にあたる。
第2章にあたるのが、東京で生活を始めた新垣結衣。彼女の前に先輩役の向井理が現れ、生田斗真が追い掛け、彼女が困惑し…と言った、遠距離恋愛に有りがちな事の問題点が描かれる。更に生田の家庭での出来事が追い討ちになり、2人の間で1つの結論を出すまで。
この辺りも約35分程度だったかな?
残りの約50分が、それぞれの生き方を選択した2人のその後の生活振りと、或る事をきっかけとして再会を果たす2人。お互いを思いながらも再びの別れ。そして…とゆう流れ。
2人が出会うきっかけのエピソードはなかなか面白かった。無理の無い展開かと思う。
但しラブストーリーに有りがちな、喧嘩に発展する辺りは。観ていて少し苛々してしまう人が多いのでは?
ありきたりと言っては語弊が有るのかな?ここでもう少し「嗚呼!この2人愛し合っているのにどうにもならなくなってしまい可哀相!」と思わせる話の持って行き方になっていれば、クライマックスでは恋愛映画としてのカタルシスを味わえたかも知れないのですが…。
一応はその様に話を展開させてはいるものの、2章にあたる終盤から3章にあたるニューヨークでの生活の辺りからは、時間経過が急速に早まってしまう。勿論2人が再会を果たす際に、どうにも埋めようの無い時間経過による心の隙間を表現してはいるのですが。それにしても何故ニューヨークなのか?向井理の役柄を考えると別に不自然では無いのですが、彼との関係性を考えると、どうしても“そんな話の持って行き方”しか思い浮かばないのかなぁ〜…ってところですね。陳腐とは言いたくは無いけれど、“そう感じる”人は多い筈です。
時折絵葉書の様な画面が映る様に、綺麗な画を撮る事に、演出自体も気を入れ過ぎている様にも感じた。
♪庭のハナミズキ〜♪
歌詞通りに庭にはハナミズキが埋まり、1年間の気候の変化によって様々な顔を見せる。
この樹が植えられた経緯が、彼女の回想シーンによって観客には知らされる。1枚だけ残された父親との記憶。この際に貼られた彼からのクリスマスプレゼントを始め、彼のその後の生活を匂わせる伏線や、故郷での同じ建物での楽しい思い出等々。脚本自体は「ハナミズキ」とゆう歌の歌詞には捕らわれずに構築されてはいる。いるのだけれども、歌自体の歌詞から受ける悲恋的な印象からは少々逸脱している様にも感じ、この辺りは賛否が有りそうにも思える。
ところで、この庭に咲く1本のハナミズキの樹。
本当に絵葉書的な綺麗な構図なんですが、過去にもこれ程1本の樹を美しく描いた映画が有ったなあ〜と、『処女の泉』や『サクリファイス』を一瞬思い出した。
『処女の泉』は、娘の純潔性の象徴を表し、その姿を高貴なものとして捉え。父親が復讐を決意する際には、娘を襲われた父親の怒りと狂気の対象として。『サクリファイス』では、最早核戦争は避けられ無くなってしまった世界の中で、唯一人間の可能性を信じ。且つ未来永劫の平和を願う象徴としての、1本の樹として描かれていた。
この『ハナミズキ』でも9.11の事件を作品の中に1つのモチーフとして入れていたので、その様な要素が入っているのか?と思って見ていたのですが…。
違いますね!単に画的に綺麗だから…って理由だけですねこれは(苦笑)
ところでこの作品のスタッフには、同じ新垣結衣ちゃん主演の大ヒット映画『恋空』のスタッフが多数参加している様です。
『恋空』自体は、内容的には「まあ!あんなもんかな…」って言ったところでは或るのですが、兎に角「主演の女優さんを綺麗に撮ろう!」と言った意識が明確に出ている作品だったと思います。
その意味ではこの作品でもやはり「綺麗に撮ってあげよう!」との意識は強く。前半多少垢抜け無い女の子が、東京で垢抜けた女の子に変身してどんどん綺麗になって行き、後半ではキャリアウーマンとしてニューヨークの街並みを闊歩する…この姿には、自分の理想的な生き方を投影する女性も多い筈です。
新垣結衣ちゃんは、今が少女から大人の女性への転換期にあたる。そんな意味でも、高校生から実年齢を10歳上回る年齢まで演じたこの作品には、“今でしか撮れない”貴重な作品になっていますね。
この作品のスタッフは『恋空』同様に、内容的な面を別に考えれば、なかなか良い仕事をしていると思いますよ。
(2010年8月22日TOHOシネマズ錦糸町No.1スクリーン)