「青春映画の王道たる内容なんですが、あまりに手堅いというか、古めかしい仕上がりで、涙を誘われるところがあまりありませんでした。」ハナミズキ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
青春映画の王道たる内容なんですが、あまりに手堅いというか、古めかしい仕上がりで、涙を誘われるところがあまりありませんでした。
カラオケで良く歌う『ハナミズキ』のロマンチックな歌詞と、土井監督作品の『いま、会いにゆきます』のラストシーンの感動が忘れがたく、本作も期待して見にいったのですが
ちょっと期待はずれでした。
ひと組の男女の10年間の軌跡を綴ったラブストーリーです。2時間半の大作で、北海道やカナダロケによる美しい映像でまとめていて、映像的には見応え充分。しかし、淡々としているというか、これという仕掛けがないのです。よくいって青春映画の王道たる内容なんですが、あまりに手堅いというか、古めかしい仕上がりで、涙を誘われるところがあまりありませんでした。
これが韓国映画だったら、後半からたたみ掛けるように涙腺を直撃するエピソードをいれてくるはずです。しかも『ハナミズキ』というタイトルをつけた割には、歌詞の内容が無視されすぎです。言い訳程度に、一本のハナミズキの大木が植えられているだけというのでは、一青窈のファンが納得されないでしょう。
『ハナミズキ』というからには、もう少しストーリーに、神秘性とか、相手の幸せを永遠に祈る気持ちを込めて欲しかったです。
本作のテーマは、遠距離恋愛で翻弄される現代の若者たちの挫折と成長を描くもの。そこには、二人の会える距離を遠ざけることになる、将来の進路の迷いなどが被さっていくのです。
幼い頃に父親を亡くした北海道のお嬢様学校に通う女子高生紗枝と、漁師の康平が恋に落ちます。きっかけは、JRの車両と鹿との事故による遅延。この列車に乗車して、早稲田の推薦入学面接に急いでいた紗枝を康平が助けたことが出会いとなりました。シカとぶつかるなんて設定はいかにも北海道らしいですね(^_^;)
しかし紗枝が念願通り、早稲田大学に進学し、離ればなれになった2人の思いはすれ違っていってしまいます。
その後10年間で別々な人を好きになり、それぞれ互いに結婚してしまったのが意外な展開でした。その間はほとんど、離ればなれになってしまうのです。
けれども因果は巡り、紗枝が選んだ相手は、父親と同じ戦場カメラマンでした。世界中の戦場で屈託のない子供たちの写真を撮ることを生き甲斐にしていた、紗枝の夫にやがて起こるべきことがやってきてしまいます。
悲しみを癒すために、ずっと行ってみたかった自分の生まれたカナダの街の灯台を灯台を訪れる紗枝でした。このとき懐かしい康平とニアミスするのです。予想はしつつも、あまりに都合の良すぎる出会いには、苦笑してしまいました。
一方、父親の残した借金のため、船も手放した康平でしたが、破産と同時に離婚。マグロ漁船に乗り込み世界の海を駆け巡っていたのです。
お互いがフリーになったことも知らずに、すれ違うばかりの二人の人生がどうやって、ハッピーエンドを迎えるのかは、画面で見てください。
この作品で土井監督が表現しようとしたのは、10年という歳月の重みでした。その先に見えるのは人生そのものです。高校時代は二人とも初々しく、語る台詞も何処かぎこちないふたり。それがやがて別れや再会を経て、20代後半で再開するとき、凄く落ち着きが出ていて別人かと思うくらい大人の雰囲気を見せつけていました。
新垣と生田の両主演が、2人の変わった部分と変わらない部分を見事に演じ分けてみせていたと評価はできます。
特に新垣の感情の切れは素晴らしい。その反面、漁師役の生田はスマートすぎて、ミスキャストではないかと思います。市原隼人の様な山出しのゴリラの方が、様にはなっていたのではないでしょうか?
それにしても、ラブストーリーが作りにくい時代になったとは思いませんか?
本作のように身分や家柄が恋人を引き裂くことはなくなり、すれ違いの悲劇は携帯電話によって簡単に根絶されてしまいます。本作の舞台が95年からの10年間という携帯が普及する直前の時代なためかろうじて、すれ違いが成り立ちました。
しかし現代は現代の恋人たちを阻む障害が、立ち上がってくるものです。それが本作でも描かれる、女性の社会進出によって余儀なくされる遠距離恋愛。女性が自立する志向を強めるほど、男は置いて行かれてしまうのですね。
本作でも、紗枝は東京の大学を出て、海外で語学を活用した仕事に就くことを子供の頃から夢見ていました。対する康平は漁師の跡継ぎ息子。これでは将来の青写真がまるで異なり過ぎます。当然2人の間に距離の壁が立ちはだかるのは時間の問題だったのです。事実高校を卒業して以降、ふたりが一緒に過ごしたのは、恐らく数日しかありませんでした。あとは、互いを思いながらの遠距離恋愛の日々だったのです。
どこか仕方ないで通してしまった本作。もう少し切ない葛藤を演出して欲しかったです。
ところで映画に限らず、物語を進める際には、何処かに人間の悪意が潜んでいることが必要になります。それが主人公の純愛を引き立てる訳ですね。でも本作には主人公はじめ、小さな脇役に至るまで、悪意を持った人物がいません。東京で再会するふたりにベットシーンもないのです。
それでもふたりの関係は壊れてしまい、お互いが深く傷ついてしまいます。前途したように、かつてのラブストーリー恋人は身分や家柄の違いといったどうにもならない運命に翻弄されてきました。
しかし、新しい時代のラブストーリーでは、きっと男も女も大事なことは、たとえ傷つくことになっても自らが決断する勇気が描かれていくのでしょうね。
メロドラマには向かない設定かも知れませんが、それはそれで、運命に翻弄されるよりもはるかに気高くすがすがしい物語となっていくことでしょう。