ハナミズキ : インタビュー
新垣結衣が「ハナミズキ」で体得した、無償の愛のもうひとつの形
歌手・一青窈の代表曲をモチーフに、土井裕泰監督が映画化する「ハナミズキ」が8月21日から全国で公開される。同作で、北海道の高校に通い、海外で働くことを夢見て勉強に励む主人公・紗枝に扮したのは新垣結衣。生田斗真が演じた康平との恋愛を軸に、高校時代から米ニューヨークで働くキャリアウーマンに至るまでの10年間を演じきった新垣が撮影を振り返った。(取材・文:編集部、写真:堀弥生)
2004年のリリースから5年以上を経た現在も、多くの人々の支持を受け続けている一青の同名曲。花言葉が「返礼」であるように、映画では全編を通じて見る者を包み込むような「無償の愛」が紡がれている。新垣は、北海道・釧路をはじめ東京などの国内ロケだけでなく、ニューヨーク、カナダ・ノバスコシア州のルーネンバーグでの海外ロケに臨み、約5カ月にわたる長期ロケを踏破した。
「北海道での学生時代の撮影が一番印象に残っていますね。思春期の最も大事な時期に康平くんと出会って過ごしたからこそ、紗枝にとってはすごく大切な存在になったのかな。それに、大人になってからの北海道のシーンにも思い入れがあります」
劇中では、すれ違いながらも互いを思い合う2人が10数年間のなかで成長していく姿を描く。当然ながら、ケンカをすることもあれば情緒不安定に陥るひと幕も。甘酸っぱい記憶を喚起させるのは北海道でのシーンだけで、東京と釧路での遠距離恋愛を余儀なくされ離れ離れになってからは、もどかしさばかりが募っていく。2人が22歳のときに、康平の身に起こった事件がきっかけとなり、電話越しで決定的な別れを目の当たりにする。
「あのシーンは痛いですね。セリフもえぐられるようで辛いですし。ただ、何も言い返せない……みたいな。言わせてしまったという気持ちと、何でそんなことを言うの? という気持ちと、でもずっと前から分かっていたような気持ち。複雑ではあるけれど、それこそがリアルなんだなと思って演じていました」
そして月日が経ち、紗枝はニューヨークで充実した編集者生活をおくる。親友の結婚式に出席するために一時帰国した際に、康平と思いもよらぬ形で再会。自宅前に屹立(きつりつ)するハナミズキの木の前で、2人は人生の新たな一歩を踏み出す。「感情的な部分で共感できるのはすごくいっぱいありますが、あのシーンは特別ですね。やっと抑えていた気持ち、見ないようにしていた気持ちが一瞬だけ合致する。うれしいけれど罪悪感を覚えたり、疑問、願望……、複雑に入り乱れたシーンでした」
同作のキーワードになるのは、様々な局面で見受けられる「無償の愛」。あらゆる登場人物が、何がしかの形で無償かつ一途な愛を与え、そして与えられている。なかでも康平からの無償の愛を一身に受け続ける紗枝。無償=見返りを求めない。ただその一方で、与えられる側が相手に見返りを求めず、負荷を感じさせないことで成立する「無償の愛」の形もあるはずだ。
「紗枝がまさにそうですね。映画で描かれる2時間の間は、まさにもらってばかり。前に進んでいく力が人一倍あるなと思っていたけれど、それは紗枝自身の頑固さと、康平くんの言葉や存在あってのものですよね。頑張っている姿を見て、康平くんや周囲の人はもっと応援しようと思うのだろうし。それは、無償の愛のもうひとつの形って気がします。ただ、もらってばかりではなく、与えられる人間になりたいですよね。世の中の目に見えないサイクルのようなもので、与えることで感謝の気持ちや思いやりが自然と返ってくるものだと思いますから」