「だめだ、ついてゆけない」渇き とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
だめだ、ついてゆけない
後半、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の、クローディアとルイスを彷彿とさせる。
でも、あの甘美な世界ではない。
失笑気味のワイヤーアクション。
そしてクローディアのようなテジュは、1、2歳児のような言動とともに、クローディアよりも生々しく露骨な大人の女のいやらしさを振りまいてくれる。
ルイスのような立ち位置のサンヒョンも激しい。思慮深いようなふりを見せるが、結局、短絡的にその場その場の欲求を満たしてしまう。信者へのふるまいも、己のことしか考えていない。どうせ彼らの前からいなくなるのなら、心のよりどころを奪うことはないのに。勝手に理想化されて荷が重いのはわかるけれど、その理想化をあんな形で撃ち砕かれた心の傷には思いやれない。
そんな激しい展開から、『インタビュー・ウィズ・バンパイア』とは、まったく別の世界を見せてくれる。
一歩間違えれば、三流映画にもなりかねないが、受賞するような映画に仕上がっているのは、やはり役者×演出×映像の力。
特に、ガンウを巡る心象風景ともいえる、ガンウとテジュの夫婦の寝室での、サンヒョンとテジュのまぐわいシーン。これほどまでに、怖くて不気味なシーンを見たことがない。よくあるホラーのただ驚かす場面とは一線も二線も画す。
マザコンのヘタレ男として登場したガンウ。演じるハギュン氏がすごすぎる。
また、後半眼だけで演技するラ夫人(テジュの姑)を演じるヘスクさんの存在感。
あの、殺戮乱闘の中、床に転がされているラ夫人の眼差し。封印していた良心を揺さぶり起こされてしまうあの一瞬。そしてサンヒョンとテジュの行く末を見つめる眼差し。
この目があるのとないのとでは、物語における緊張や、いろいろな意味づけ(ここは映画の中では明確に語られていないので、鑑賞者がかってに想像するしかないが)が、多重的になる。単なる、ロマンティックな逃避行にはさせてくれない。
なんて映画だ。
と、いろいろな映画賞を受賞したのもうなづける。
演出や映像、役者の、職人芸的技の複合芸術と、私が好きな要素はたくさんあるのに、二度見る気がしない。
『悲しみよりもっと悲しい物語』といい、『母なる証明』といい、なんて自分の”欲望”に忠実なんだ。他人を利用してでも叶えてしまう”望み”。
養い子に対するあの仕打ち。”犬”といって憚らないことが、まだまかり通るのか。
包帯姿のサンヒョンを退院させてしまう”あの機関”。日本ならあり得ないだろうなあ。ましてや”研究機関”なんだから、その後を経過観察しなくていいのか。なんて乱暴な。自分の変化に気が付いたサンヒョンが逃亡するのならわかるけれど。そして、異変に気が付いても”機関”に戻らないサンヒョン。その後の経過観察をしないで、その後の責任を取らない関係機関。第二のサンヒョンが生まれたらどうするんだ。
と、脚本のミスなのか、韓国でも”当たり前”なのかわからないけれど、こんなところが受けつけない。
ああ、私は韓国と相性が合わないのかもしれない。
私にとって、異文化理解はまだまだ先のようだ。