「ラストをあまり仕掛けすぎずに、穏当に終わればもっと印象深くなったのではないとと惜しまれます。」東京島 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ラストをあまり仕掛けすぎずに、穏当に終わればもっと印象深くなったのではないとと惜しまれます。
原作は、1945年から1950 年にかけて、マリアナ諸島のアナタハン島で起きたアナタハンの女王事件をモデルに創作された作品。なお、アナタハンが戦時中の事件であったのに対して本作の時代設定は現代に置き換えられています。(但し年代未定)
主人公の清子に扮するのはこれまで「不幸が似合う女優」と呼ばれてきた木村多江。ところが本作では、打って変わり、太陽の下、明るくずぶとく生きる「島でたった1人の女」を演じています。なりきりモードで凄い演技を連発していました。
役に入りすぎ、自分に戻れなくなったこともあったのだそうです。船上で死んだ中国人を海に落とす場面では、「人を海に捨てるしかないっていうのが耐えられず、頭が変になってしまった」のだと。それでパニックになり、カットがかかった後も、涙が止まらなかったとインタビューで答えています。
劇中清子の変わり身の早さに唖然とさせられます。その反面、追い詰められたときの女性の生存本能の強さを感じさせるドラマでした。しかもその明るく生命力に満ちた輝きは、無人島生活が長くなる後半ほど、強くなっていくのです。
ラストの蛇足のように長い後日談と、産んだ子供を置き去りにする不可解な清子の決断を除けば、清子の強さや自由さを体感して、落ち込んだ気持ちにカツが入る作品でした。
クルーザーで夫・隆と世界一周旅行に旅立った清子。だが出発からわずか3日目に嵐に遭い、数日間漂流した後に2人が漂着したのは、どことも知れぬ無人島でした。 荷物を整理しながら、つぶやく清子の台詞が強烈。一番の不要品だったのは夫でしたという言葉が追わないうちに、その夫が都合良く崖から転落するシーンは印象的でした。
序盤の展開は、スピーディーに作品の世界を構築していきます。それから間もなく、与那国島での過酷な労働に耐えかね、島からの脱出を図った16 人のフリーターたちが途中で台風に遭い、島に漂着します。さらに密航に失敗した6人の中国人たちが加わって、奇妙な共同生活が始まるのです。
ここから清子の女王として君臨する生活がはじまります。演じる木村もノリノリです。 早速にグループで一番のボス格だったカスガと再婚して、他の15人の日本人漂着者を走りに使います。ワタナベだけは、共同作業に非協力的でひねくれた性格が嫌わたうえに、清子に対して悪態をついたため、通称・トーカイムラという浜に追いやられます。
このワタナベという一癖ある嫌みな役どころを窪塚洋介が別人格になたっかというくらいの好演を見せています。
ところが横暴を極めた春日部は、元夫と同じ崖で、何者かに突き飛ばされて死んでしまいます。ストーリー上で犯人が不明のままで終わってしまうところが不満に思いました。 これ以上の争いを避けるため、残されたメンバーは、清子の「夫」をくじ引きで決めます。嫌がる清子が次第に変わっていくところが、本作の見所の一つです。
サバイバルを軸としつつも、シリアスに振らずに、コミカルな部分を強調し、一種のコメディーになっています。
一番笑えるところは、中国人のグループが筏を作り、島から脱出するときリーダーのヤンの女になるのだったら、一緒に行かないかと誘われます。夫がいるからと一端は拒絶するものの、中国人たちが口々にグルメな料理の名前を出していくうちに、清子もその単語にこころが奪われてしまい、狂ったように筏に飛び乗るところ。その余りの変節ぶりに笑ってしまいました。
その後海上を彷徨ったあげくに戻ってくるところも傑作です。グループから逃げたことから、これまでの女王扱いから格下げして、全く無視された孤独な生活に戻ってしまうのです。規約の戻った夫のユタカと仲間たちの激変ぶりと清子の悲嘆に暮れる姿が印象的なシーンです。
切羽詰まった清子ですが、そこに最大の女の武器が宿っていました。妊娠したことをユタカに告げて、再びリーダーの妻としての立場に復権を果たしました。
しかし、清子はいつヤンが自分を連れ去りに襲ってくるか不安でなりません。お産を前に、自分から中国人グループに接近して、ヤンにあなたの子供が生まれるのと告白するところでは、これが女の生存のための強さかと感動しました。
しかし疑問なのは、妻を取られてもユタカたち日本人のグループは、一向に奪い返しにかからなかったことです。
新たな漂着者が流れ着き、彼らが持ち込んだ壊れたボートが直ったとき、ひとりもこの島から脱出させてはいけないという掟を勝手にユタカたちは決めた上で、脱出しようとする清子と中国人グループに襲いかかるのです。
以前にも、中国人グループとの抗争の火だねはいろいろあったのに、この時点で抗争を始めるタイミングとは、少し御都合主義を感じさせます。またリーターのユタカの子供でもある清子の子供を、日本人グループがこぞって殺そうとするのは、動機がよく分かりませんでした。
ロケは鹿児島県の沖永良部島と徳之島で、2か月弱。現地で出演者が暮らす住居や小道具なども、現地であるもので美術スタッフが手作りしたそうです。撮影自体がサバイバルドラマになっていて、現場に行くのに、すごい距離を歩ま必要があったそうです。さらにロープを伝って下りたり、はしごを上ったり。命の危険を感じたこともあったそうです。そんなサバイバルな雰囲気は、オールロケで撮りあげただけに、たっぷりと伝わってきました。
ラストをあまり仕掛けすぎずに、穏当に終わればもっと印象深くなったのではないとと惜しまれます。
劇場予告編を3Dで上映しているそうですが、ご覧になった人はいませんか?