「破綻」東京島 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
破綻
桐野夏生のベストセラー小説を、現代を代表するバイプレイヤー、木村多江を主演に迎えて堂々の映像化。
原作が持つ、現代の日本が抱える空虚感、乱雑感、それでも残る未来への希望というメッセージを、忠実に表現しようとする努力は、十分に感じることが出来る。木村のコミカルな中に滲み出る女性としての強さ、ずる賢さ、そして弱さは観る者を作品に誘い込む説得力を持っている。
だが、この作品全編に漂う気だるさは木村の演技力を持ってしても拭えない。サバイバルという極限状態にあって、ここまで能天気に淡々と物語を進めていこうとする制作陣の姿勢は、「生き残る」という命題を必死の筆力で描ききろうとした原作の覚悟を完全に愚弄していると言っても良い。中国人と日本人の衝突の中にある爆発、痛みも陳腐な子供同士の喧嘩の如し。その先にあるユートピアを描きたいのならば、途中にある葛藤も本気で表現しなければ、観客もその美しさに胸を打たれない。
何故、ありがちな南国風味の音楽で男達を踊らせる。何故、真剣に女性の砂に塗れても生きていく執念を割愛する。原作と離れたところに映画はあってしかるべきだか、これを全国の映画館にかけて誰が喜ぶか。原作ファンか、映画ファンか。どちらでも、ない。
何が、この作品を映像化するうえで必要だったのかを真剣に考えたか。もっと、誠意ある作り手の挑戦が見たい。ただただ、悲しさだけが胸を打つばかりである。
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